エースが海軍に捕まって数日……
海軍は他の海賊達への見せしめに…と、エースを公開処刑する事を決定した
島にある海軍駐留所の最奥の檻
そこは対能力者用に海軍が開発した
海楼石を使用した頑丈な柵で出来た特別仕様の檻で
エースが拘留されている場所
「ふふん……能力者など、対処方を誤まらなければ ひ弱なものだ。」
「 ここから出せっつってんだろ!! 」
足に付けられている枷のせいか 力の入らない身体……
それでもを探したい一心で
目の前に居る海兵に対し、声を荒げるエース
「 まぁ待て、もう少ししたらココから出してやるから。
もちろん行き先は処刑台だけどな、はっははは!! 」
「 んだと!!」
「 その足枷を付けたまま処刑台に送れば簡単に処刑出来る…
貴様は なすすべもなく死んでいくんだ、能力者とは哀れなモンだな。 」
「 てめぇ…… 」
余裕綽綽…と言った表情で、小馬鹿にした態度を向ける海兵に
怒りを抑えきれず殺意に満ちた目を向けるエース
「 そ……そんな顔をしたって怖くないぞ?!
厄介な貴様のその能力も発揮出来なければ意味が無い!!
それに仲間の助けを待ったって無駄だ!
貴様が我が軍に捕縛された事は機密事項…
この情報が白ヒゲの耳に入る頃には、貴様の首は処刑台の上だ!! 」
よほどエースの視線に恐怖を感じたのか…
捲し立てるように喋り続ける海兵
「 海軍ってなぁ悪趣味だよなぁ……
ある意味、海賊よりタチが悪ィんじゃねぇのか? 」
「だ……誰だ!?」
突如 背後から聞こえてきた声に驚き振り返る海兵
すると その視線の先には、
同じく海軍帽を目深に被った一人の男の姿が…
「何だ貴様、どこの隊の者……ぐっ!!」
男は海兵の喉元を掴み 片手で軽がると持ち上げると
目深に被った帽子を脱いで 床に放り投げた
「……白髭二番隊のモンだ。 大事な部下を返して貰いに来たぜ。」
声の主は現白髭二番隊隊長…エースの上役である
「 ネイサン……何でココに? 」
「 政府がお前を公開処刑するってぇ情報を入手したから返して貰いに来たんだ。 」
「 な……何故それを……この件は極秘事項のハズ…… 」
「 極秘事項……ね。 あんまり海賊をナメて貰っちゃ困るなぁ…… 」
高々と掴み上げていた海兵を眼前に引き寄せると、
ドスの利いた低い声で囁くように告げるネイサン…
「 壁に耳あり障子に目あり…ってな。
広い世の中、海賊と通じている情報屋なんか幾らでも居るんだ。
海賊なんてモンは腕力しか能の無ぇ奴等ばっかだと思ってると
こうやって足元掬われる事になるんだぜ? 」
そう言い終えると、その腰元に付いていた檻の鍵を取り上げ
ゴミ屑のように 床の上に海兵を投げ捨てた…
「 き……貴様ら、ここから無事に逃げられると思ってるのか!! 」
「 もちろん思ってるぜ? 」
「 ほざけっ!! この駐留所には百人はくだらない海兵が… 」
「 居たなぁ……でも、み〜んなスヤスヤと安眠中だ♪ 」
「 な……!? 」
ネイサンのその言葉に、海兵は慌てて起き上がり
牢の外へと飛び出した。
「ば……馬鹿な………」
眼の前には、駐留所内の彼方此方で倒れている海兵達の姿が……
「 お…おい! みんな どうしたんだ!? 何で寝てるんだ!!」
身近に居た海兵の襟を掴み、揺さぶってみるが起きる気配はない…
「 無駄だ…暫くは目を覚まさないぜ。 」
「 貴様……一体 何を…… 」
「 食堂に忍び込んで 飯に睡眠薬を混ぜてやったのさ。
見張りの奴らには一服盛ったコーヒーの差し入れ……頭は使うためにあるんだぜ? 」
「 く…くそっ……こうなったら本部に連絡を!! 」
「 ……させると思うか? 」
「 っぐぁ!!」
鳩尾に拳を入れられ、気を失ってしまった海兵を担ぐと
ネイサンは再び エースのいる牢へと戻った
エースが入れられている檻の鍵を開けて中に入ると、
気絶した海兵を檻に残し、再び鍵をかけ 早々に駐留所からの脱出を図った…
駐留所からかなり離れた辺りで、エースの足が
地面を蹴る速度が序々に弱まり始めた…
道中 落ち着かない様子のエースに気付いていたネイサンは
港に向かう足を止め、エースの方へと向き直る
「 …どうした? 」
「 なぁ…海兵に盛った薬ってなぁ どれくらい保つんだ? 」
「 そーだな…せいぜい半日くらいかな…まぁ、コッチは港を出て この島から
ある程度 離れるまでの間 時間が稼げりゃイイだけの話だからな。 」
「 そっか…… 」
「 ……この島に まだ用事が残ってんだろ? 」
「 ?! 何でそれを… 」
「 お前の態度見てりゃ判るさ(笑)」
エースが簡単に海軍に捕まった事自体 腑に落ちなかったネイサン
何かしらの理由があっての事だろうとは思っていたが、
イチイチ 根掘り葉掘り聞くような事はしなかった。
しかし、先程からの落ち着きのない様子を見れば
エースにとっての心残りがこの島の何処かにあるのだろう、という事は一目瞭然…
「 実はよ…探し出して連れて行きたいヤツが居るんだ。 」
「 ……連れて行きたいヤツ? どんなヤツだ?? 」
「 お…女なんだけどさ、そいつ…」
「 女ぁ?! 真面目に言ってんのか、お前?! 」
「 あ……あぁ……駄目か? 」
「 いや、駄目じゃねぇよ別に。 船に女を乗せるのは縁起が悪ィっつーけど
ウチの船にゃ既に沢山 乗ってるからな。
んな事より、お前の口から女って言葉が出てくるとは思わなかったからビックリしただけだ(笑)
あ〜あぁ〜〜…ヤケ酒飲んで暴れるナースが出そうだな、こりゃ。 」
「 何だそりゃ。」
「 お前は そーいうトコ無頓着だったからなぁ(笑)
……しかし、そんなお前をその気にさせた女ってな どんな女なのか興味が湧いてきたな♪
さっそく拝ませて貰わにゃ…って、その前にまず探すのか。 何てぇ名だ?」
「 名前………………あ。」
「 ………何だその反応は……まさか名前も知らないとか言わねぇよな? 」
「 そのまさかだ………名前、知らねぇ… 」
「 はあぁ〜〜〜?!?! 何だそりゃ!!
惚れた相手の名前も知らねぇなんて聞いた事もねぇぞ?!」
「 し…仕方ねぇじゃねぇか、ついこないだまで俺ぁ口が利けなかったんだからよぉ…」
「 …口が利けなかった? どういうこった… 」
「 実は………」
エースは ココまでの経緯を こと細かくネイサンに説明し始めた…
「 なるほど……色々あったってぇ訳だ。
しかし、名前が判らねぇのは痛いな〜……どうやって探し出しゃいいんだ?」
「………やっぱり難しいか?」
「 そりゃな……俺は顔も知らねぇから手分けして探す訳にもいかねぇしな。
とりあえず、離れ離れになった その滝のトコから しらみ潰しに探してくしかねぇだろ。」
「………悪ィ。」
「 …らしくネェな、行くぞオラ!!」
「 ってぇ!! 」
申し訳なさそうな顔をしているエースに対し
問題ない、と言わんばかりに 景気良く その背中を叩き行動を促すネイサン
二人は 最後に と別れた滝のある森へと
その足を走らせていった…
エースの居る島から少し離れた所にある とある島
見晴らしの良い小高い丘の上には、大きな屋敷が一軒 建っていた
広々とした屋敷の中にある一部屋
そこには 先日 助けられたが眠っていた
ベッドの上で静かに横たわっているに
窓から差し込んだ柔らかな日差しが降り注ぐ…
「……ん……」
閉じていたの瞼がユックリと開く…
「 おぉ……目が覚めたかぃ? 」
日の光の眩しさに、一瞬 目を伏せたの耳に
おっとりとした物腰の男の声が聞こえてきた…
「 貴方は……誰? ココは……っつぅ!!」
起き上がろうとしたの身体を激痛が走る…
ベッドの傍らでロッキングチェアーに座り 本を読んでいた老人は
慌ててに駆け寄ると、ゆっくりベッドに横たわらせた
「 まだ起き上がらん方がいい、傷に障るからのぅ……酷い怪我で
三日三晩 眠りっぱなしだったんじゃ、一体 どうすればあんな怪我をするのか…… 」
「 どこか……高い所から落ちた…ような…… 」
「 落ちたって…どうしてそんな事に……」
「 確か……何かに追われて…逃げていて………っつぅ!! 」
老人の問いに答えようと記憶の糸を辿る
しかし 遡って思い出そうとすればするほど、の頭に激しい痛みが走る…
次の瞬間 の顔色は みるみる青ざめていき
その身が小刻みに震え始めた
「 ………わ……わから…な……… 」
「 ……何じゃと? 」
「 思い…出せない………あ…たしは一体…… 」
「 …………… 」
突然その身を襲った出来事にパニックを起こし、
酷くうろたえた様子のの手を 老人は優しく握りしめた
「 ほらほら 落ち着きなさい……大丈夫、多分 一時的なもので
すぐに思い出せるようになるじゃろうて…
その前に まずは その怪我を治す方が先ではないかな? ん? 」
宥めながら穏やかに語りかける老人の言葉に
次第に落ち着きを取り戻し始めた
「 ……は…い…… 」
「 宜しい…では、まず温かい食事でも用意させよう。
ずっと眠っていたんじゃ、お腹も空いてる事じゃろうて… 」
そう言うと 老人はゆっくり立ち上がり、部屋から出て行った
( ……一時的なモノ…か…… )
( 本当にちゃんと思い出せるのかな… )
( ……それよりも…… )
先程から心の片隅に感じている虚無感は 記憶の一部を失ってしまった為なのか
それとも他に何か理由がある為なのか…
深く考えようにも、自分の身に起こっている出来事を
理解する事すら出来ていない今の状況では 何をすべきかも判らず…
( これから一体…どうすればいいんだろう…… )
はベッドの上に横になったまま
ぼーっと部屋の天井を眺め続ける事しか出来なかった……
「 ちくしょう!! 何で見つかんねぇんだよ!!!」
川伝いに くまなく探し、下流の村や近隣の町にも探しに行ったが
結局 の姿を見つける事が出来なかったエース
イライラを抑えきれず、海岸に打ち上げられていた流木に
その拳を振り降ろし 怒りをぶつける…
そこへ 少し離れた岩場の方へ行っていたネイサンが
神妙な面持ちで戻って来た
「……どうしたんだ?」
「 いや…ちょっとな……気付いた事があるから あの家に確認に行って来る。
だが お前はココで大人しく待ってろ?
また さっきの町医者ん時みたいに騒がれても困るからな。」
「 あ…あれは……あの医者が、患者のプライバシーが何たらとか
グダグダ言いやがるから つい…… 」
「 まぁ……お前の気持ちは判らねぇ訳でもねぇが、
今は あんまり騒ぎを起こして目立つ訳にはいかねぇんだ…
いいか、大人しくココで待ってろよ? 」
「 ………判った。 」
ついて行きたいのは山々だが、ネイサンが言っている事も正論で…
仕方なく その言葉に渋々従うエース
暫く じっとしてはいたものの…
先程のネイサンの表情が気になり、何とも気持ちが落ち着かないエース
「 ……あそこに何かあったのか?」
エースはネイサンが居た場所へと行ってみる事にした
そこはゴツゴツとした岩場の広がっている場所で
川が海へと抜け出たところでもあった
きょろきょろと辺りを見回してみたが
特に何が落ちている訳でもなく…
「 何にもねぇじゃねぇか……ん? 」
ふと海岸沿いの岩陰に目を留めたエース
川の流れと波が交わり、水面が緩やかに波打っている場所
その岩場の影に 何やら黒っぽい物が見えた…
「 何だこりゃ… 」
しゃがみ込み良く見ると、乾いて変色してはいるが
明らかに血痕らしき物が 岩場の其処彼処に付着している…
「 ……まさか…… 」
「 その まさかだよ。 」
「 !? 」
いつの間に戻って来ていたのか、エースの後ろにはネイサンの姿が…
「 今の…どういう意味だよ!? 」
「 どういう意味も何も…お前の想像した通りだっつーんだ。」
確かに 一瞬 エースの脳裏に不吉な予感が過ぎった…
しかし 縁起でもねぇ、と 直ぐに打ち消したのだ
だが それを肯定するかのようなネイサンの言葉に
エースの心中は穏やかではない
「 それじゃ…アイツは…… 」
「 安心しろ、死んじゃいねぇよ。 」
「 何でそう言い切れるんだ?! じゃ、アイツは何処へ行ったんだよ!? 」
「 だからそれを確かめに行ってきたんじゃねぇか!
とりあえず…落ち着いて俺の話を聞け。 」
何を どう理解すれば良いのか判らない、といった様子のエースに
説き伏せるように言葉を発したネイサン
その言葉に エースはその場に座り込むと
肩を落とし 項垂れてしまった…
ネイサンは そんなエースの姿に
見ていられないな、といった表情を浮かべながらも
ゆっくりと語り始めた…
「 今 そこの家で聞いてきた話だと、
ここ数日中に この海岸で死体が上がったなんて話はなかった…
かと言って、その血痕を見りゃ無傷って事ぁねぇはずだ。
だが 医者にもソイツは居なかった…それはお前の目で ちゃんと確かめただろ? 」
「 …あぁ… 」
「 じゃぁ 何処へ行ったんだ、って事になるんだが…
可能性としては、誰かがソイツを見つけて連れてっちまったんじゃないか、って事だ。
医者へ連れて行かなかったのは、そんな猶予も無いほど酷い怪我だったか…
もしくは 自分が医者か、お抱えの医者を連れていたかだ。
実際、二・三日前に そこの岬に停泊した船が一時間もしない内に
出航していったのが目撃されてる…観光や補給にしちゃ短すぎるだろ? 」
「 …………… 」
「 まぁ、全部 俺の推測で、確固たる証拠は何もねぇからな。
納得するか しねぇかはお前の自由だ…だが
そろそろ海軍の奴らに盛った薬の効果も切れ始める頃…
お前が拒否しようが何しようが、俺はお前を連れて この島を出る。
親父が心配してんだ……判るだろ? 」
「 ………あぁ……… 」
「 そう落ち込むなよ、エース……
一旦 本船に戻って元気な姿を見せてやれば 親父も また外に出してくれるさ。
それから また ゆっくり探せばいい…それとも何か? もう諦めたのか? 」
「 へっ……生憎 俺は諦めの悪ぃ男でな。
どれだけ時間がかかろうが、必ず見つけ出すさ。 」
「 はは…そうこなくちゃな。 そうと決まりゃ、一旦 本船に戻るぞ 」
「 …おう。 」
島を出る際、多少 後ろ髪を引かれはしたが
散々 探し回ったにも かかわらず 見つからなかったのも事実
必ず探し出す、と心に誓い そのまま島を後にした
本船に戻ってからのエースは 周りが目をみはる程 がむしゃらに仕事をこなし
少しでも自由な時間が取れると を探しに出掛ける…といった生活を送っていた
しかし、暫く後 ネイサンが隊長職を退き
エースが二番隊隊長に就任するとさらにエースの仕事は増え…
結果 気付けばと別れてから一年の月日が過ぎ去っていった……
「 ……い。 おい、エース!! 」
呼び声にハッと気付いたエースの目の前には
弁当箱を持って突っ立っているコックの姿があった。
「 あんまり大したモンは入ってないんだが… 」
「 いや…面倒臭ぇ事 頼んじまって悪かったな。 」
エースは差し出された弁当箱を受け取ると 笑顔を向け
そのまま食堂を出て行った…