しつこく追いかけて来ていた海軍を振り切り
町の手前の森に入り込んだ二人…











「傷………見せて。」











を担いだまま走り続け、さすがに疲れたのか

木の根元に座り込んでしまったエース



その傍らに座り込むと、羽織っていた上着を脱がせ

ゆっくりと包帯を外していく





激しく繰り広げられた逃走劇のおかげで

開ききった傷口からは、ドクドクと真っ赤な鮮血が溢れ出している…















「傷口が開いてるっていうのに、無茶な事して…
アタシなんか見捨てて一人で逃げりゃ良かったんだ…」















荒い息遣いでグッタリとしているエースを見て、憎まれ口をたたく


しかし その言葉とは裏腹に、語尾は弱弱しく震えている…





うなだれたまま顔を上げないの頭に手を廻すと

グイッと引き寄せ、抱き締めるエース…









――─ …ったく、素直じゃねぇなコイツは…… ─――








口元に笑みを浮かべ、の髪に口付ける…

しばらくエースの腕の中で身動きもせず大人しくして居ただったが、

思い付いたように顔を上げると、ポツリと漏らした。






「…何処かに血止めに使える薬草でも生えてないか探してくる。」






目元をガシガシと擦り、立ち上がったの腕を

エースが心配そうな顔をして掴む







「…大丈夫だよ。そんなに遠くまで行かないから…ちょっと待ってて?」







そんなエースに向かって笑顔で答えると、

は一人 森の奥へと入って行った







































( 海賊…か。 海賊にだけは関わらないつもりだったのに… )














薄暗い森の中を一人 トボトボと歩いている







海賊に惚れた挙げ句 捨てられ、苦労続きで死んでしまった母…


同じ道を歩くまいと心に決めて生きてきたつもりだったが

いつの間にか同じような道を歩み始めている自分が何だか滑稽で笑えてくる。











( いくら考えたって、どうにもならないよね…
今更、アイツの事を忘れるなんて出来っこないんだし… )








「 血は争えないって事かなぁ……何だかね〜…はは…
ま、イイや。 そんな事より薬草を探さなきゃ… 」









は鬱蒼と茂る木々の根元や

その回りに生えている草などを注意深く見ながら探し始めた









薬草探しに意識が集中し、本人も気付かない内に

ドンドンと森の奥まで足を踏み入れていく…








地面を見ながら歩いていたの耳に

前方から何やら音が聞こえてきた









「………何の音だろ?」










音のする方向に向かい歩き出す

次第に その音が どんどん大きくなっていく…




木々の間から光の差し込んでいる場所を見付けた

何気にその場所を通り抜けてみる













「……わぁ……」
















薄暗かった目の前がイキナリ明るくなり

轟音と共にヒンヤリとした冷たい空気が肌を撫でていく。




そこにあったものは…

















「凄い…滝だ…」
















高所恐怖症のクセに好奇心だけは旺盛な


興味本位で恐る恐る下を覗き込んで見る…







「 うわ〜…怖ぇ〜…… 」







水面までの高さに 思わず腰が抜けそうになる










 「 あ〜…しかし、なかなか生えてないもんだな。  
  とりあえず、一旦アイツの所に戻ろうかな… 」









クルリと後ろを振り返ったは、

ふと木の影に隠れている黒い物体に気付いた










「 何か……居る?」









が良く見ようと少し身体を動かすと

黒い物体から地を這うような低い唸り声が聞こえてきた…





バキッと鈍い音を立て、地面に落ちていた枯れ枝を踏みつけて

ゆっくりとに向かって近づいて来たのは体長1メートル程の獣






赤みを帯びた灰色の長い毛並み…

尖った大きなその口先からは赤い舌をダラリと垂らしている









「  お……狼?! 」











狼は低い唸り声を上げ、大きな眼をギラギラと輝かせながら

ゆっくりとに近付いて来る…




恐怖心に目を逸らす事も出来ず

ただ ジリジリと後ずさりしていただったが

とうとう崖っぷちまで追い詰められてしまった





後方に見えるのは轟音を上げながら滝壺に落ちていく水流…

前方には大きな眼をギラギラと光らせた狼が

の喉元に喰らい付こうと狙っていて身動きが取れない状態…















( …狼に食われるのと滝壺に落ちるの……どっちがイイかな? )













( どっちも痛いだろうけど、滝なら泳げるから生き残れるかもしれない…… )












パニックを起こし、妙な事を考えている



すると前方にいた狼が、大きな唸り声を上げ

勢い良くに向かい飛び掛ってきた












「 〜〜〜〜〜っ!!!! 」

( やっぱ食われるのは嫌だ〜〜〜!! )
















あまりの恐ろしさに叫び声を上げる事も出来ず

目を見開いたままその場に立ち竦む






すると突然 狼の後方の木陰から

炎の塊が飛んできた







「 ギャンッ!! 」









炎塊を叩きつけられた狼は

そのまま勢い良く滝壺に落下していった…






ハッと炎が飛んできた方向に目を向けた

その目に飛び込んできたのは、木に凭れ掛かっているエースの姿…




フラフラとした足取りでの傍へと歩み寄るエース








「あ……」









ホッとして気が弛んだ…






その瞬間





崖っぷちギリギリに立っていたの足元が音を立てて崩れた













「ぅわっ!!」


───  ! !  ───












エースは慌てて駆け寄り、バランスを崩して崖から落ちるの手を咄嗟に掴んだ。



かろうじて真っ逆さまに落ちるのは防げたものの、

エースの腕一本で崖からぶら下がっている状態の







抉れたような形状の切り立った崖…

足を引っ掛けようにもそんな場所もない。














( 足場が…無い……怖い〜…… )












は必死にエースの腕にしがみ付き

崖の上によじ登ろうともがいてみるが、それも叶わない。


逆にがもがけば もがく程、

その負担がエースの傷口にジワジワとかかっていく…





身体の奥から込み上げてくる恐怖に

次第に下半身の感覚が無くなっていく












傷口から溢れ出す鮮血がエースの腕を伝い

の腕を掴んでいる手がズルリと滑った













「 きゃぁっ!! 」


─── くそっ…力が……入らねぇ…… ───












エースはその腕に力を入れ、を引き上げようとするが

どうにもならず焦りばかりが募る…










( あんなに…血が…… )









自分の手を掴んでいるエースの腕に視線を移す

傷口から流れ出る鮮血が見ていて痛々しい…























「 …ねぇ… 」


――― ……? ―――








自分を見上げるの表情に

言いようの無い不安を感じるエース…













「 手…離して。 」



――─  ……何 ?! ――─



「  あんた能力者なんだろ? この島の川は塩分濃度が高いんだ…   
 もしアタシと一緒に落ちたりしたら、能力者のあんたは溺れちゃうよ。
    アタシは泳ぐの得意だから、落ちても何とかなると思うし…  」










の言葉を聞き怒ったエースは

腹の底に力を入れ、思いっきり叫んだ










「───っざけんな!!」


「 !! 」









怒りも手伝ったためか 数日ぶりに声が戻ったエース









「 …良かったvv 喋れるようになったじゃんvv 」









エースの身に声が戻り、安堵の笑みを浮かべる










「 んな事言ってる場合か!! もっと しっかり掴まれ!! 」


「 …………… 」


「 おい! 聞いてんのか!! 」















足元には底の見えない深緑色の水面が広がっている…

暫く黙ったまま水面を見つめていたが、覚悟を決めたように顔を挙げると

小刻みに震え始めたエースの手に自分の手を重ねる













「おい…何する気だよ…」


「  ゴメン…もう見てられないよ…アンタ一人でなら逃げられるだろ? 」











自分の腕を握っているエースの指先を

無理矢理こじ開けようとするに思わず声を荒げるエース。









「ふざけんな!! この高さだぞ!! ただで済むと思ってんのか?!」


「……大丈夫だよ、下も岩場じゃなさそうだし…それに……」


「 それに何だよ!! 」


「……本気で あんたに惚れちゃったみたいなんだアタシ。」


「だったら何で手ェ離すんだよ!!」


「 ばかだね…本気で惚れちゃったから これ以上アンタに迷惑掛けたくないんだよ。
アタシは……惚れた男の枷にはなりたくない。  」


「そんな屁理屈 判んねぇよ! 俺に惚れてんなら一緒に来い!!」


「……そのセリフ凄ェ嬉しいかも……じゃぁ、
下で待ってるから 後で必ず迎えに来てよ…ねvv 」













そう言い終えるや否や、はエースの指先を無理矢理こじ開け

深緑色をした水面へと落ちて行った…














「 くそっ!! 」











慌ててを追って飛び込もうとしたエース…


しかし…














 バサリ












「 な………何だ…ぁ!? 」







その想いとは裏腹に、突然 エースの身の上に

覆いかぶさってきたネットにより 強力な脱力感が身体を襲う











「 ふははは!! やっと追い付いたぞ、ポートガス・D・エース!! 」










声がする方へと目線を向ければ、

そこには先程の町から追い掛けて来ていた海兵の姿が……










「どうだ、動けまい。我が海軍最新鋭の対能力者捕獲用の網だ。」










見れば網の交差部分に海楼石で作った玉が通してある。

海楼石は触れるだけで能力者のあらゆる力を奪い取ってしまう石…

もちろんエースにとっても例外ではない。










――― くそ! しつけぇ奴だな!! 早くしねぇとアイツが…… ―――










焦りを募らせながらも、なすすべはなく…

エースは そのまま海軍に捕縛されてしまった
































が滝壺に落下して暫く経った頃…











品の良さそうな初老の男が、執事らしき男とボディーガードを携え

穏やかな海岸沿いを歩いていた










「 いい天気だ……小春日和と言うヤツじゃな。 」


「左様でございますな旦那様。」


「 おや、あれは……もしや、人か?」










岩場の所に引っ掛かり、打ち寄せる波にユラユラと漂っているを見つけた男


慌てて駆け寄ると、ひどい怪我で既に虫の息…








「こりゃいかん……早く医者に診せてやらんと死んでしまう。」


「では旦那様、ココからだと町も遠い事ですし 一旦 船に戻って主治医に見せましょう。」


「そうじゃな……早くしないと手遅れになりかねない。」









男の言葉を聞いたボディーガードはを抱え上げ、

近くに停泊していた船へと歩いていった















船に居た主治医の診た結果、

医療の進んでいないこの島では治療に必要な医療器具も薬品も無く

このままでは助かる見込みが少ない。

屋敷に連れ帰り治療を施す事が最善の策だと言う判断を下し、

を乗せた船は そのまま島を出て行ってしまった……