ゴツゴツと無機質な足音が薄暗い廊下を響き渡る…
「 起きてっかな… 」
辿り着いた一室の前
ドアの外で耳を澄ませ 部屋の中の様子を伺うエース
物音一つせず 静かなままの室内…
「 …まだ気が付いてねぇのか? 」
エースは極力 音を立てないように 静かにドアを開け
室内に入った
さほど広くない部屋の片隅にあるベッドの上には
が一人 横たわっていた
手に持っていた弁当箱をテーブルの上に置き
眠っているの傍らに歩み寄るエース
─―― やっぱり…落ちた時のショックで記憶が抜けちまったのか? ─――
手を伸ばせば届く距離にが居る…
記憶は失くしてしまっているものの
長い間 探し続けたものを取り戻した喜びは大きい
前髪を軽く掻き上げ、静かに寝息をたてているを
愛しげに見つめるエース…
暫くは大人しく見ているだけだったが
” 触れたい ” という想いを どうにも抑えきれず
徐々に エースの身体は の方へと傾いていく……
ギシリ…
ベッドが軋み 乾いた音を立てる
─―― …起きっかな? ――─
そっと口唇を重ねるエース…
すぐに離れて様子を伺うが、起きそうな気配はない
――─ 結構 鈍いなコイツ……もう一回だけ…… ――─
軽く触れるだけのつもりで そっと口唇を重ねたエース……
が
つい舌先をの口内に割り込ませてしまった
『 カチャリ 』
シーン と静まり返った部屋の中に 鈍い金属音が響き
肌掛けの下からエースの腹部に硬い物が当たった
「 …起きちまったか。 」
「 いくら何でも そこまで鈍くねぇっつーの…何すんだよ!! 」
「 あ? 良く寝てっから おはようのキスしてやったんじゃねぇか。 」
「 ふざけんな! 誰の許可を得て
んな事してんだ! 撃ち殺すぞ!!」
下からキッと睨み付けるを見て
二ヤリと口角を上げ不敵な笑みを浮かべるエース
「 いいぜ別に……撃ってみな? 」
「 ……は? 」
「 心臓はココだ……よく狙えよ。 」
肌掛けを剥ぎ取り、の手首を掴むと
銃口を自分の心臓のある辺りに ピタリ と当てるエース
「 ちょっ……何す…… 」
「 どうした……引き金 引かねぇのか? 」
「 ……く…… 」
「 護身用に持ってても、撃てなきゃ意味がネェよなぁ… 」
「 ……ぅ…… 」
「 ……撃ち方 教えてやるよ 」
「 …あ? 」
そう言うと が引き金に掛けている指に
自分の指を重ね合わせるエース…
「 な…何すんだよ! ヤメろ馬鹿っ!! 」
「 こうやって使うんだ。 」
「 や……やだっ!! 」
エースは重ねた指先にグッと力を入れ 引き金を引かせる…
その瞬間 は思い切り身体を強張らせ 目蓋を強く閉じて顔を背けた
『 ガチンッ 』
撃鉄は落とされたものの…
銃口から弾丸が発せられる事は無かった
「 ………?! 」
「 ……くっ…ぷはははっ!!」
恐る恐る目を開け 訝し気に手に持っている小銃に目を向けるに
思わず笑い出すエース
そんなエースを見て イマイチ状況が理解出来ていないのか
キョトンとした様子で見上げる
「 ははは…悪ィな、弾は抜いといた。」
「 …何 ?!」
「 当たり前だろ…ココを何処だと思ってんだ、海賊船だぞ? ボディチェックくらいするさ。」
「 ちっ…そういう事は先に言えよ……心臓が止まるかと思った 」
とりあえず 銃で人を撃ち殺す…なんて事にならず ホッとしただったが
ふと ある事に気付き、エースを睨みつけた。
「 ちょっと待て…どうやって弾抜いたんだよ!? 」
「 そりゃぁ 銃から取り出したに決まってんじゃねぇか。 」
「 銃は服の下にあっただろ! まさか…見てねぇだろな!? 」
「 あぁ? イイじゃネェか別に、減るモンでもねぇし。 」
「 っざけんな!! そういう問題じゃねぇだろ!! 何もしてねぇだろな!? 」
「 反応が無ェのもつまんネェからな、ナンもしてねぇよ…まだ。 」
「 「まだ」って何だ!! 何する気だテメェ!!!! 」
「 ナニするって お前……シてイイのか? 」
「 良い訳あるかぁっ!!」
「 ぷはははっ!! 」
顔を真っ赤にして怒るが可笑しくて堪らないエースは
腹を抱え 大きな笑い声をあげた
「 何がそんなに可笑しいんだよ!」
「 悪ぃ悪ぃ…そうだ、腹減ってネェか?
食いモン用意してあるぞ♪ 」
「 …要らない。
何か変なモン入れられてたら困るから! 」
「 変なモンって……別に何も入れてねぇよ。 」
「 ふん。海賊の言う事なんて信用出来るか…
変な薬でも入ってて 襲われたら困る。 」
「 んな事しねぇっつーの……ったく、しゃぁねぇなぁ。 」
ブツブツ言いながら立ち上がると
テーブルの上に置いてある弁当箱を取りに行くエース
起き上がったの元に戻って来ると
ベッドの縁に座り、蓋を開けて適当に中身を一つ摘み
口の中に放り込んだ
「 …うめぇぞ? 食わねぇのか? 」
「 ……… 」
はエースが食べるのを暫らく無言で見ていたが
あまりに美味しそうに食べる姿に 思わず喉がゴクリと鳴った
横から ヒョイと一つ摘まむと
少し不安げな表情を浮かべながらも 口に運ぶ
「 …美味しvv 」
「 だから言っただろ、ほれ♪ 」
エースが差し出した弁当箱を受け取ったは
美味しそうに 一つ一つ 味わいながら食べ始めた…
味付けもの好みに合っていたのか、
次から次へと口に運び込まれ
気が付いた時には 色とりどりに盛り付けられていた弁当箱の中身も
綺麗に食べ尽くされていた。
「 あ〜美味しかったvv ごちそうさまでしたvv 」
満腹になり 機嫌が良くなったのか
口元を綻ばせたに、嬉しそうな笑顔を見せるエース
その顔に一瞬 ドキッとして 思わず顔を逸らした
( な…何だ? 何でこんなに心臓がドキドキするんだろ…やっぱ何か入ってたのかな? )
そんなを 静かに見つめるエース
その視線に気付いたものの
どうすればいいのかも判らず、とりあえず睨み付ける
「 な…何だよ……何をそんなにジロジロ見てんだよ… 」
「 いや………何で俺の事
覚えてネェんかなって思ってな。 」
「 ……はぁ? 」
は エースの思いがけない台詞に
思わず間の抜けた声を出した
「 んだよ、マジで全然覚えてネェんだな……あんなに俺に惚れてたのによ♪ 」
「 な…何言ってんだよ! バッカじゃねぇの!?」
ニヤッと笑いながら頬を撫でてくるエースの手を慌てて振り払い
真っ赤な顔で睨み付ける。
( 私がコイツに惚れてた?! 海賊相手に…絶対 有り得ない!! )
「 …試してみっか? 」
「 ……え? ち…ちょっ…… 」
スッと立ち上がり をベッドに押し倒すと
の上に跨り 空になった弁当箱を床に放り投げるエース
「 な……何すんだよっ!!」
「 ナニしたら思い出すかもしんネェだろ?」
「 ば…バカな事言ってんじゃね……!!」
反論しようとしたの口唇をキスで塞ぐエース
「 んんっ!! んっ…う…!! 」
エースの舌先が口唇を割り の口内を荒らしだす…
バタバタと足を動かして蹴り上げてみるが
太ももの上に乗られている為 エースには当たりもしない。
のしかかっている上半身を突き飛ばそうとした手も
いとも簡単に掴み取られ、ベッドに縫い付けられてしまった。
さらに深く口唇を重ね、逃げるの舌を捕らえると
ネットリと舌を絡めていくエース…
「 …ん……ぅ…… 」
最初は思い切り抵抗を示していただったが
次第に身体の力が抜け始め されるがままになっていく…
( ……何だ……?…… )
( ……どうしちゃったんだろアタシ…… )
( ……何か……変…… )
不思議と嫌悪感が感じられない…それどころか
心の奥底に
エースの行為に対し喜びを感じている自分が居る事に気付き
その事実に困惑を隠しきれない…
始めは手荒だったエースのキスも
の抵抗が弱くなるにつれ 次第に甘く
優しいものへと摩り替わっていく…
自分を求める熱いキスに対し
身体の奥深くから溢れ出す 甘く痺れるような感覚が
の心を解きほぐし 満たしていく…
「 …っ…はぁ……… 」
やっと解放されたの口唇からは
吐息混じりの声が零れ落ちた
エースの節ばった指が の頬を撫でるように触れ…
「 …どうだ? 何か思い出したか?」
「 ……な訳……ねぇだろ…… 」
「 はは…そりゃそうか。 ま、ゆっくり思い出して貰うさ。
それでも駄目だったら……もう一度 俺に惚れさせるまでだ♪ 」
「 ふん……大した自信家だ… 」
二ヤリと口元に笑みを浮かべて自分を見つめるエースに
は呆れたように呟き 目を逸らした