「 やっぱり… 」








宿屋の主人に案内され、降りていったの目に入ってきたのは

先日 散々な思いをさせられた男の姿だった。








「 よぅ…この間は散々な目に合わせてくれたな… 」


( そりゃコッチのセリフでしょ )









先日 あんな事をしておいて、そんな台詞をいけシャアシャアと

言ってのけた男に もはや呆れるほか無い










「 あのバーテン、 あの後すぐに店 辞めちまってよぉ……
お陰でお前の泊まってるトコ探すのに日にちが かかっちまった。」


「 ……アンタもそのまま姿を消せば良かったのに 」


「 ……あ?……何だって? 」


「うぅん……何でもないvv 」













ポツリと呟くように漏らした台詞を聞き取れなかった男に対し

ニッコリと作り笑顔を向ける











「私も会いたかったの、ずっと…… 」


「……? 一体全体 どういう風の吹き回しだ??」


「 この間はゴメンナサイね……私、酔うと酒乱になっちゃうみたいで 」


「 酒乱…ねぇ……」


「 悪い事しちゃったなぁ〜って、反省してたの。
ちゃんとお詫びをしなくちゃと思って……受け取ってくれる? 」


「 …詫び?」









懐疑の目を向けながらも 歩み寄って来た男に対し

少し俯き加減で近づいていったの目元からは笑みが消えていた


















































『 バタン!! ガタガタ…ガタン!! 』

























――― …ん……ウルセェなぁ…… ―――












エースが目を覚ますと、いつの間にか部屋に舞い戻って来た

バタバタと手荷物を片付けている所だった。











――─ 何だ? スゲェ慌ててんな… ─――














ベッドで寝ていたエースは むくりと起き上がると

の腕を引き、呼び止める











「あ…ゴメン、バタバタと…あのさ、実は今すぐココを引き上げたくて…」


――─ あ?? えらく急だな… ――─












訝しげな顔をして見つめるエースに

困惑の笑みを浮かべ 話し出す








「さっきの客ってのが……こないだのアイツでさぁ……」











の言葉に眉尻をピクリと上げ、眉間に深い皺を刻み込むと

ゆっくりとベッドから立ち上がるエース









─── あの野郎、性懲りもなく… ───








至極 不機嫌そうな顔を見せ、部屋から出て行こうとしたエースに

嬉しい反面 慌てて引き止める











「 あ……で、でもね!」










はエースの腕を引き、オズオズと目線を合わせ言葉を続ける













(こんな事 言ったら行儀の悪い女だって思われちゃうかな…やっぱ……)



─── ……………? ───

























「……思いっきり蹴り飛ばしてやったから。」


─── ………は? ───














の言葉を聞き 目を点にしたまま微動だにしなくなったエース

そんなエースを見て 気恥ずかしそうに俯く











「だ…だってアイツがあんまり間の抜けた事 言うもんだから、アタシもムカついてさぁ…」

( あ〜〜〜〜〜やっぱり呆れられ…た……!! )










言うんじゃ無かったかな…などと思いながら

情けない顔をしているの目の前で、エースは腹を抱え 声も無く笑い転げた









――― っぷははっ!! やっぱコイツ最っ高ーー!!! ―――


「 な……何 そんなに笑ってんのよぉ〜〜〜!!!」


─── あの男が吹っ飛ぶ瞬間か…見てみたかったなぁー♪ ───


「 い……いい加減に笑うのやめてよ………あ。」





そんなエースの様子に内心ホッとしつつも、少し ふて腐れた感じのだったが

思い出したように 再び手早く荷物をまとめながら話しはじめた













「 でね、アイツが のびてるうちに 店のオジサンに理由を言ったら
少しの間 誤魔化してあげるから その内に逃げなさいって……
だから早くココを出てかないと…… 」


─── そういう事か…だが俺も ちぃっとばかしアイツに言いてぇ事があんだよなぁ… ───









荷造りの理由は判ったが、少し気に入らないと言った様子のエースに
言いたい事が判ったのか、困ったような笑顔を向ける









「 ……ココのオジサンに凄くお世話になったのに、これ以上迷惑まで掛けたくないの。
判って……くれるよね?」


─── そりゃ判らねぇ訳じゃねぇけどよ…… ───










納得し難いと言った表情のエースに対し

お願い! と言わんばかりの視線を向ける









─── ………ったく…仕方ねぇなぁ。 ───












深い溜め息を吐きながら理解を示したエース





壁に掛けてあった上着を羽織り 荷物を持つと

帽子での頭を軽く叩き 部屋の外へと促した。


ホッと安堵の笑みを浮かべたは、エースの後に付いて部屋を出る





























部屋を出るとキョロキョロと非常口を探す二人…

しかし 古い安宿だからか、非常口らしきものは見つからない。














――─ 二階に出口は見あたら無ェな…どうすっかな? ――─














ウロウロとしていたエースが立ち止まり考え込んでいると、

ふと階下に視線を移したと、一階のロビーに居た男の目が合った。














「…やば…」


――─ ん? ――─


「目ぇ合っちゃった…コッチ来る!!」


――─ …ちっ! しゃぁねぇ…こうなったら… ――─


「わっ! な…何?!」










慌てふためくを肩の上にヒョイッと担ぎ上げると、

元居た部屋に戻り ベッドの横にあった窓を開けるエース。

窓の下は狭い裏通りになっていた。












――─ 地面まで3メートル弱ってトコか…楽勝だな。 ――─











『ドンドンドン』















激しくドアを叩く音が聞こえ、外から男が叫ぶ声が聞こえてくる


エースは窓枠を掴むと足を掛け、を抱えたまま地面に飛び降りた。








─── 痛っ! ───









ドンッと鈍い音をたて、地面に着地すると同時に

エースの肩口に激痛が走る…











――─ ヤベェ…傷口開いちまったか? ─――











治りかけていた傷口に 飛び降りた際の衝撃に加え

担いでいたの体重まで掛かったのだから無理もない。



上着の下では開いた傷口にギリギリと激しい痛みが走る…

しかし、バレない様にと平静を装いながらを下に降ろすエース。




滑降時の衝撃にクラクラと目を廻していて、

そんなエースの変化に気付かない









「 うぁ〜…き…気持ち悪ィ……はっ!?
そんな事 言ってる場合じゃなかった、逃げなきゃ…」










気を持ち直し、エースと共に裏通りを抜ける

















「さて、どうしよう…取り敢えず この街を出て隣り町まで歩いて行く?」













大通りの人込みに紛れ込み、ホッと一息ついたはエースの方を振り向き問い掛ける


それに対し、少し引きつった笑顔で頷くエース








「 ……………??」








心なしかエースの顔色が悪い事に気付いた

ハッと思い立ち、慌ててエースの上着を掴む




その手を振り払うように上着を引き戻したエースの態度に確信を持ったのか

再度 上着の襟を掴むと、素早く捲る

案の定 先程巻き直した新しい包帯に真っ赤な鮮血が滲み出してきていた…














「うわっ! 傷口 開いてんじゃん!!」


─── ちっ… ───










真っ青な顔をして血の滲んだ包帯を見ている

エースは その腕を掴むと、街の出口に向かって歩き出した









「ちょ…ちょっと……そんな状態で隣り町まで歩いてなんて行けないって!
さっきの宿屋に戻って医者に診て貰お!! ね!?」


――― んな事したら逃げた意味がネェじゃねぇか… ―――


「ちゃんと人の話を聞けって! せっかく治りかけてたっていうのに…」


















の言葉に耳も貸さず、スタスタと歩いて行こうとするエース

その手を引っ張り 騒いでいるの声に

通りに居る街の人達の視線が集まり始めた…








「何だ何だ?」


「痴話喧嘩か??」








足を止め、二人の様子を眺める人々…

その中には街の駐在の姿もあり、視線はやがてエースにも向けられた









「…あれは…まさか……」










数日前に 海軍から送られて来た手配書を取り出し

目の前に居る男と見比べる…









「やっぱりそうだ!」









と一緒に居る男が手配書の男 『ポートガス・D・エース』 だと確信した駐在は

慌てて持っていた携帯型電伝虫を使って海軍に連絡を入れる








先回 あと少しの所でエースを取り逃がした海軍が近くを捜索していたようで

ものの数分もしないうちに駈け付け

人影に身を隠しながら 徐々に二人の回りを包囲する…







騒いでいるに気をとられ、エースは駆け付けた海軍に気付かない…














「そこを動くな!」


――─ ん? ………あ。 ─――


「…え? な…何?!」










突然 大きな声で叫ばれ、ビックリしたが振り向くと

銃を構えた大勢の海兵が自分たちを取り囲んでいた



指揮官らしき男がエースに向かって叫ぶ









「白ひげ海賊団のポートガス・D・エースだな!
先回は取り逃がしたが…今回はそうは行かないぞ!!」


─―― ちっ! 面倒臭ェのに見つかっちまった… ─――


「 か…海賊……?」


─── ………ぁ? ───






ほんの一瞬 が見せた表情に不安を感じたエース…


しかし、とりあえず 今の状況を切り抜けるのが先決だと判断し

取り囲んでいる海兵に向かい その拳を振りかぶる










「な…何を……?!」










振り下ろされたエースの拳からは灼熱の炎が放たれ

豪炎で身の丈程の壁が作られた









「何 今の…手から火が……うわっ!!!」







目の前で繰り広げられる光景に驚きを隠せないを再び肩に担ぐと

地面を強く蹴り上げ、炎の中心から飛び出すエース










「大佐! 女を担いでいます! どうすれば…」

「クソッ…おめおめ取り逃がす訳にはイカン!構わん!! 撃てー!!!!」










指揮官の合図と共に激しい銃声が鳴り響き、身体スレスレを銃弾が掠めていく…








流れ弾がに当たる可能性も考えられる…

エースは力強く壁を蹴り上げると、その跳躍力で建物に飛び移り

屋根伝いに街の出口に向かって走りだした













「逃がすな! 追えー!!」











これ以上の痴態を晒す訳にはいかない、と

やっきになって追いかけて来る海軍を余所に その差は徐々にひらいていく



しかし、その間も傷口からはジワジワと血が溢れ出していた…