ゴツゴツと無機質な足音をたて を担いだまま階段を昇るエース
少し錆付いたドアノブを回して部屋に入ると、ベッドの上に ゆっくりとを降ろした
宿に備え付けのベッドは古く、ギシリと乾いた音をたてて軋む…
すでにアルコールが全身に回りきったのか
グッタリと横になったままの……
「……重かったでしょ…ありがとvv」
エースを見上げ、けだるそうに溜め息を吐きながら そう一言呟くと、
ゆっくりと瞳を閉じる…
ベッドに横たわるの着衣は少し乱れ、
そこからチラリと覗く肌はアルコールで上気している為か
ほんのりと朱に染まっている…
シットリと艶を帯びた口唇から吐き出される吐息は
情事の最中に出されるものに似ていて…
エースは思わずゴクリと生ツバを飲んだ
無防備なの姿にエースの脳裏を不埒な考えが一瞬過る……
が、平気な顔をしていても先程の事でが傷付いているのは判っている。
――― ここで手ェ出しちゃ、さっきの奴とナンも変わらねぇじゃねぇか。 ―――
無防備な姿も裏を反せば それだけ自分が信用されているという事。
今ここで何かをすれば、さらにを傷付けてしまうだけに違いない…
――― 一時の感情で事を起こすのは 浅はかだよな… ―――
エースは邪な考えを吹き飛ばすかのように ブンブンと頭を振ると
から視線を逸らし、羽織っていたコートを脱いで椅子に投げ掛けた。
すでに眠ってしまったのか ピクリとも動かないに
毛布を掛け その場を離れようとした…その時
「 …ぁっ！！ 」
小さな叫び声が上がると同時に、エースの身体がグイッとベッドに引き寄せられた
――― うぉっ…！！ ―――
「 落ち…る………」
の上に覆い被さるように倒れ込んだエースだったが、
とっさにベッドに両肘を付き自分の身体を支える
――― ………落ちる？ ……あ～… ―――
泥酔状態で横になった為、寝入った瞬間
身体が落下するような感覚に見舞われたのであろう。
眉間に小さな皺を寄せ、少し苦しそうな表情の
――― …気分悪そうだな… ―――
エースが の髪をそっと撫でてやると、その表情がフッと和らぐ…
――― んな安心しきった顔すんなよ… ―――
――― 俺だって……男だぜ？ ―――
真下で幸せそうに寝息をたてているを見て
少し複雑な気分のエース…
出会って数日しか経っていなかったが、
自分の中で確実に大きくなってきているの存在
そんな相手が、呼吸が頬にかかる程の至近距離で眠っている。
何もするなと言うのが酷な話……
――― 悪ィな……これだけ…… ―――
軽く身を屈め、眠っているの口唇に触れるようなキスを落とすエース…
「 ……ん…… 」
一瞬 ピクリと反応はしたものの、が目を覚ます事は無かった
――― やべぇ…このままだと理性が飛びそうだ… ―――
エースはを起こさないよう 静かに身体をずらすと ベッドから降りようとした
…が がズボンのベルトをしっかりと握ったまま…
――― おいおい…俺に どうしろっつーんだ… ―――
エースは小さく溜め息を吐くと、仕方なくの隣に寝転がった。
「 ん～～……… 」
寝返りをうったの胸元がエースの視界に入り
時折 零れる吐息がエースの肌をくすぐる…
――― これじゃ襲われても文句は言えネェぞ お前… ―――
アルコールと香水の入り混じった甘い香りが
鼻腔をくすぐり 男の本能を刺激する…
しかし、エースに対し 警戒心の欠片も持っていないかのようなの寝顔に
たしない理性が欲望に歯止めをかける…
――― …ある意味 拷問だな、こりゃ…… ―――
エースは自嘲気味にククッと笑うと、ゆっくりと瞳を閉じた…
翌朝
窓から差し込む朝日が瞼を照らす……
その眩しさを遮ろうとモゾモゾと毛布を引っ張る
その時、ふと感じた違和感
（ ……この温かいものは何？）
が枕だと思い 頭を乗せていたものは とても温かく、
耳に意識を集中させると、トクトクと規律正しいリズムを刻んでいた
（ これは…… ）
は自分の今 置かれている状況を瞬時に理解し、
寝起きで思考が停止していた脳も一気に覚醒した
顔を上げると、視線の先には案の定エースの顔が…
一瞬で耳まで真っ赤になりガバッと飛び起きる
（ ちょっと待って…何でアタシ コイツと一緒に寝てたの？！ ）
――― ん……起きたのか……… ―――
の飛び起きた振動でエースも目を覚ました
――― あーー……でも俺はもう少し寝かせてくれー…… ―――
結局 一晩中 理性と欲望が葛藤していたため
寝付いたのは朝方で、少々寝不足のエース
「 ……お…… 」
――― …お？ ―――
「 おはよう…ございます 」
――― …………は？ ―――
パニクッていたは エースに対し、何を言えば良いのか判らず
とりあえず敬語で挨拶してしまう
混乱した頭を整理しようと昨夜の出来事を思い出そうとするが
部屋に戻ってからの記憶が一切思い出せない
「 え…えっと……あの……… 」
――― 凄ぇ動揺してんな…まぁ、当然っちゃぁ当然か。―――
は特に酒に弱い訳でもなく、今まで一度だって
酔っていたからと言って、前日の記憶がなかった事などなかった。
昨夜も部屋に戻ってからベッドに降ろして貰った所までは覚えている
が、その後の事を一生懸命思い出そうとするのだが……
（ な…何にも思い出せない…）
思い出せないも何も、実際 何もなかったのだから覚えていなくて当然である。
しかし、朝 起きた時に同じベッドで寝ていれば
何かあったのかと思うのは当然で…
（ き……聞いてみようかな…… ）
（ でも、もし何かあったんだとしたら……覚えてないってのも凄く失礼な話だよなι ）
（ ど……どうしよう…… ）
――― ……面白ぇなぁ…… ―――
赤くなったり 青くなったり、コロコロ表情が変わるを
ベッドに寝転がったまま面白そうに眺めているエース
その時 ふとが顔を上げ、ポツリと一言洩らした…
「 あ…そうか… 」
――― ……ん？ ―――
エースの方を振り向き、ジーッと見つめたまま動かない
――― 何だ？ ―――
（ …良く考えたら、何かあったか 無かったかの前に… ）
（ コイツがアタシに対して、その気になるか ならないかってのが先だよな？）
普段 酒場で客に対して見せている姿と違い、
最初から素のガサツな自分を見せている
一度でもエースに対して女らしい仕草をして見せた覚えはない。
（ こんな可愛げのない女に、何かしようって気になる訳ないよな…）
（ 何もない。そうに決まってる。）
「 …うん、きっとそうだ。 」
――― …どうやら考えがまとまったらしい。 ―――
勝手に自己完結し、安心した様子の
その様子に、多少 残念な面持ちで起き上がったエース
――― ちったぁ男として意識して欲しかったんだがな… ―――
思わず苦笑いを浮かべるエースを見ながら
ふと ある考えが頭をよぎる…
（ ……一緒のベッドに寝てて、何もされないアタシもどうよι ）
（ …それはそれで………凄いショックかもιιι ）
最終的にショックを受けて項垂れたを見て、首を傾げるエース
――― …何だ？ どんな結論に至ったんだコイツ？？ ―――
呼びかけるようにクイッと服を引っ張ったエースに気付き ハッと顔を上げる
「 あ…そうだ…お腹空いたよね。 」
――― いや別に…そういうつもりで呼んだ訳じゃないんだが… ―――
「 よし！ 朝飯食いに行こ～!! 」
半ばヤケ気味にベッドから降りたは
エースの腕を引き、部屋を出て行った。
