がエースを見つけてから三日程経った ある日…


















当初は動けるようになったら逃げてしまおうと思っていたエースだったが

の傍に居る居心地の良さに徐々にそんな気も失せてきた。


そして 甲斐甲斐しく自分の世話を焼くに対する興味も次第に深まり始めていた…






出会ってからというもの、エースは一体何処に入るのかという位よく食べ

脳ミソが溶けるんじゃないかという位よく寝ていた。


その甲斐もあってか 体力も順調に回復し、次第に自由に動き回れるようになってきた。


















窓から差し込む光が オレンジ色を帯びた西日に変わり始めた頃

読んでいた本をパタリと閉じ、が椅子から立ち上がった。










「 そろそろ出掛ける準備しなくちゃ…」


――― ん?  もうそんな時間か… ―――









は毎日 夕方になると身仕度を整え出掛けて行き

日付が変わる頃には食料を抱えて宿屋に帰って来るという生活を送っていた。




特に宿屋で出る食事が不味いとかいう訳ではないのだが

エースの食欲がケタ外れだった為、食費を浮かす為に

外でも食料を調達して帰っていたのだ。














机の上に置いた鏡を見ながらテキパキと身支度を整えていく


興味深げに見つめているエースの視線に気付いた

身仕度を終えた後 エースの傍に歩み寄った









「 …どぉ? 結構見れるでしょvv 」


――― ……女は化けるとは良く言ったもん……だっ! ―――








エースの考えていた事が判ったのか、右頬をムニッと摘む








「 今、何か凄い不快な気分になったんですけど…?」



――― …凄ぇ地獄耳… ―――



「 これでも結構モテるのよ私vv」



――― そりゃ、あんだけ上手く猫が被れりゃ…!! ―――



「 …言いたい事があるなら、この口で喋ってごらん? 」







さらに左頬も摘んで左右に引っ張る






「 まったく…お世辞の一つも言う気にならないのかしら?

って、声が出ないんだった(笑)

そうそう、今日は早めに帰って来れると思うんだ。 

帰って来たら……また昨日の続きしようなvv 」



――― またかよ…コイツも好きだな〜 ―――



「何だよ、その余裕の笑みは…ムカつく〜!! 昨日はたまたまアタシの調子が悪かっただけ! 

普段は強いんだからねアタシ…今日は絶対 勝つ!!」



――― ムキになってやがる…面白ぇ〜 ―――









前日に暇を持て余していたはエースとポーカーをして遊んでいたのだが

結果はのボロ負け…その結果が納得出来ないのか

意固地になっているが可笑しくて笑みを浮かべるエース








「 っと、時間が……じゃ、行ってきます!!」







ハッと思い出した様に時計に目を向けた

取る物も取り合えずバタバタと部屋を出て行った。







――― ったく、慌ただしいヤツだな ―――







が出掛けた後 特にやる事もなかったエースは

そのままベッドにゴロンと横になると、居眠りをし始めた…





































ところ変わって、とある酒場…








宿屋から離れた場所にあるこの店は

エースに出会う数か月前からが働いている場所であった…





「 …今日こそは色好い返事を聞かせてくれよな? 」



「 色? そうねぇ〜…オレンジ色とか好きかな〜vvv 」





愛想笑いを浮かべながら男の目の前にある灰皿を片付けている





一ヶ月程前 来店したこの男

を気に入ったらしく、足繁く店に通いつめて口説いていたのだが

皆目 相手にされないでいた。




男の我慢も そろそろ限界に達したらしく

無骨な態度でカウンター越しに腕を伸ばすと

の二の腕を掴み、引き寄せた






「 また そうやって話を逸らす…もう俺の気持ちは判ってんだろ?

いい加減、付き合ってくれてもイイじゃねぇか…なぁ…」



「 ちょ…ちょっと… 」
(馴れ馴れしく触ってんじゃねぇよ!!)



「 柔らけぇ腕だなぁ〜…女の二の腕って乳房と同じ感触だって知ってたか? 」







そう言いながら男の節ばった指先がの二の腕を揉み上げる







「 い…いやぁねぇ…変な想像しないでよ… 」
(離せ! この変態ヤロウ!!)



「 まぁ、コッチは本物と違って、少し冷てぇんだけどな〜…」



「 〜〜〜〜!!!! 」
(うぁ〜〜〜!! 気持ち悪ぃ〜〜〜!!!!)







男の厭らしい手つきに、ゾクゾクと背筋に悪寒が走る

愛想笑いであしらうのも限界に近づき、殴り飛ばしてやろうかと思った瞬間…







「 ここは酒を売る所で、艶を売る所じゃありませんよ。」







男の行動を終始見ていた店のバーテンが腕を掴み、振り払った。

そしての方を見ると、ニッコリと笑みを浮かべ口を開く…







「 …あっちで店長が呼んでましたよ。」


「 あ…はい…… 」
(助かった〜…)







パタパタと逃げるように その場を離れていく

その後ろ姿を見ていたバーテンに男は不満げに文句を垂れる…







「ちっ…邪魔するんじゃねぇよ…」






男の言葉に反応するように振り向いたバーテン


その顔には先ほどの親切そうな笑顔とは正反対な冷たい笑みを浮かべていた…






「 あれじゃ いつまで経っても落とせないですよ…もうちょっと頭を使わないと。」



「 うるせぇな…じゃ、テメェなら巧くヤれんのかよ。」



「 もちろん出来ますよ……お客さんの気持ち次第ですけどね。

僕も店にバレたら仕事が無くなるかもしれないですし…ねぇ?」







意味ありげな含み笑いを浮かべたバーテンを見て、

男はニヤリと笑うと小声で呟いた…








「 …ゆっくり話し合おうじゃねぇか。 」








席を離れたが遠巻きに男の様子を伺うと、

バーテンと何やら怪しげに会話している姿が見える…


多少 妙な胸騒ぎはしたものの、小一時間も経たないうちに男が店を出て行ったので

は大して気にも留めず、その後 閉店時間まで仕事をこなし店を出た…
























宿屋から少し離れた路地を足早に歩く


いつも通り買い物をして帰ろうと

路地の角を曲がった時、の身体に異変が起きた。






「 何だろ…足元がフラつく…そんなに飲んだ訳でもないのに…」






下半身が自分のものじゃないような不思議な感覚に襲われる…


次第に 今にも倒れそうな程フラフラとした足取りになってきたが

それでも気丈に路地伝いに歩いていた



だが とうとう立っているのも困難になり、道端にヘタリ込んでしまった…







酔っているにしては意識もハッキリしている。


しかし だんだん指先も痺れ始め

訳が判らず混乱し始めたの目の前に、人影が近づいて来た…







「 よぅ…気分はどうだ?」






声を掛けられ顔を上げると、の目の前に居たのは客の男だった。








































が出掛けてから数時間後…




目を覚ましたエースは上体を起こし、ガリガリと頭を掻きながら部屋の中を見回した。






――― まだ帰ってねぇのかアイツ… ―――






シーンと静まり返り、灯りの付いてない部屋の中…


窓を開け 外を眺めると、夕日もとうに地平線の彼方へと沈み

路地に立つ街灯の灯りが点々と宵闇の中へと続いている…








――― ……今日は早く帰って来るとか言ってなかったか? ―――







出掛けに早く帰ると言っていたにも関わらず、

普段 帰る時間を過ぎても戻ってこないに 妙な胸騒ぎを覚えるエース









――― ……何かあったのか? ―――









次第に居ても立ってもいられなくなったエースは、

上着掛けに掛けてあったコートを手に取ると、慌てて部屋を出て行った。













































 ( 何でコイツがココに?! )






目の前に居る男に対し あからさまに嫌悪の目を向ける





「 そんな顔すんなよ……しかし上手い事やるもんだなアイツも… 」



「 何それ…どういう意味……まさか!? 」







の脳裏に、先程 店内でバーテンと男が話し合っていた姿が思い出される。

どうやら その時に何か企てられたのだろう。






「 ……何したのよ一体…… 」



「 何もしてネェよ……酒を飲ませただけだ。」



「 ……酒? ただの酒で足腰立たなくなる程 弱くはないつもりだけど?」



「 ただの酒じゃネェな……度数がいつもの飲んでるモンの倍はあるヤツだから…

アイツが巧く味を誤魔化したから飲みやすくて気付かなかっただろ?」



「 信じられない……そこまでしてヤリたい訳?」



「 無理強いはしたくなかったんだが…ココまでくると男の意地っつーヤツか?」



( そんな理由でヤラれたくないわアタシ… )







ニヤニヤと下卑た笑いを浮かべる男に心底 腹立たしさを覚える



すぐにでも男を蹴り飛ばしてやりたい所だったが

下半身は完全に言う事を聞かなくなっており、それも出来ない。



どうにかして今の状況を打破しなくては…と、視線を男に合わせたまま考え込む

腕は多少の痺れはあるものの、まだ動く…




ふと ある事に気付き、口元に笑みを浮かべながら男に向かって右手を差し出した。







「 判ったわよ……はい。」



「 ……何だ? 」



「 何って…抱き上げてくれなきゃ、歩けないわよアタシ……ヤリたいんでしょ?

まさかココでヤラせろとか言わないでよ? いくらなんでも それは嫌よ?」






いきなり態度を翻したに懐疑的な目を向ける男…






「 ……あんなに嫌がってたくせに、どういう風の吹き回しだ?」



「 嫌がったってヤラれちゃうなら楽しまなくちゃね。 それとも……」



「 ………何だ?」



「 アタシを満足させられる自信が無いのかしら?」






訝し気な目つきをしている男に向かい、誘うような艶っぽい笑みを向ける


元々 惚れていた事もあり、男がその気になるのに大して時間は掛からなかった。



男は口元に薄笑いを浮かべ、が差し伸べた腕を掴むと、

もう一方の腕を腰元に回した…






瞬間





男の後頭部に鈍痛が走り、の上に崩れ落ちた。









先程、が腕を身体の後ろに回した時、その指先に冷たい煉瓦片が触れた…

男が身体を近づけた瞬間 それを掴み頭部を殴打したのである。




覆い被さるように倒れてきた男の身体を押し退けると

腕の力だけで、半ば這いずるように移動する



数メートル離れた所で一息付いたが、元々 痺れかけた腕で殴った事もあり

男はすぐに目を覚ましてしまった…






「 痛ってぇ〜…ちくしょう、ふざけやがって このアマ… 」






フラフラと立ち上がると、の元へと近づき 思いっきり腕を捻り上げる男






「 痛っ!! 離してよ!! この野蛮人!!」



「 ガタガタうるせぇ口だな! 黙ってろ!!」 



「 〜〜〜〜〜!!!!」






男の大きな掌が地面に押し付けるようにの口を塞いだ。


屈辱感と息苦しさに目の前に居る男の姿が滲む…






その時、何かが空を切るような音が聞こえたかと思うと

男がドサリと地面に崩れ落ちた。




傍を小さな石がコロコロと転がっていく…







( …石? ……?! )






ハッと顔を上げたの目に飛び込んで来たのは

真っ暗な路地の奥から駆け寄って来たエースの姿…




「 …遅いから迎えに来てくれたの?」





エースを見上げ安堵の笑みを浮かべる



その目の前に座り込み、所々 細かい擦り傷を負っているを見て

倒れている男に対し、沸々と怒りが込み上げてくるエース…




短く舌打ちをして立ち上がりかけたエースの腕を

引き止めるようにが掴んだ。







「 …肩 貸してくれない? ちょっと飲みすぎちゃったみたいで足腰立たなくて(笑)」



――― 何であんなヤツ庇うんだ?! ―――










不満そうな顔を向けるエースに、困ったように答える








「 あんなヤツでも、店にとっちゃ大事な客だから……」



――― 納得出来ネェな……客なら何しても許される訳じゃネェし。 ―――



「 ……本音を言えばね…… 」



―――  ………? ―――



「 落とし前は自分で付ける主義なのアタシvv」







怒りを押し殺しているのが肌で感じ取れるようなの冷めた笑み…


エースは多少イライラは残ったものの納得したのか の腕を引き寄せると

自分の首に絡ませヒョイと肩の上に担ぎ上げた。







「 ちょっ…アタシは肩を貸してくれって言ったのよ?! 」



――― 足腰立たねぇクセに、どうやって歩く気なんだよ。 ―――






黙ってろとでも言うようにのお尻を軽く叩くエース






「 ぎゃー! 何処触ってんだ この変態!!

降ろしてって言ってるでしょ〜!!」



――― ギャーギャーうるせぇヤツだな まったく……… ―――










肩口で喚くを無視して歩きだしたエース



降ろす気の無さそうなエースの態度に、抗うのを諦めた

エースの肩にペタリと頬を付け その腕に身を委ねた…






( もう……傷口が開かないとイイけど…… )



――― やっと大人しくなったな… ―――







の心配を他所に、エースは大人しくなったを抱いたまま

宿屋へと戻って行った………