――― ん〜〜〜…… ――― 
























――― 暑ィ。 ―――








エースが目を覚ますと、そこは殺風景な一室のベッドの上…














――― ……何処だココは? ―――













起き上がり、ふと自分の身体を見ると

傷口は治療が施してあり、丁寧に包帯が巻かれている。












――― 確か昨夜、変なヤツに拾われたのは覚えてるんだが… ―――










――― ……まいった……何も覚えてねぇ…… ―――











とりあえずベッドから降りて立ち上がったが

目眩を起こし、再びベッドの上に座り込んでしまうエース。










――― 昨夜 かなり出血したからな……貧血か? ―――









エースが、どうしたモンかと部屋の中を見回していると

ガチャリとドアを開けが入って来た。









「お…やっとお目覚め?」








ベッドの上で座っているエースに気付き、笑顔を向ける



手に持っていた氷水入りの洗面器をベッド脇の机の上に置き、

エースの傍に近づくと、額や首の後ろに手を当て熱を計る







「…ちょっとは熱も引いてきたみたいだな、よしよしvv」

「 ………!? 」






に対し、何かを言いかけハッと気付くエース…





――― 声が出ねぇ!? ―――






喉元を押さえ口をパクつかせているエースを見て、

思い出したようにが答えた。







「あ〜…」


――― ……?? ―――


「そういえば、医者が暫らく声が出せないかもって…」


――― 何?! ―――


「傷口から入った菌が喉に回って炎症を起こしてるんだって…

熱が完全に下がったら喋れるようになるんじゃないかって言ってたよ。」







言い終えるとクルリと向きを変え、洗面器の置いてある方へと向かう


氷水に浸してあったタオルをギュッと絞り、戻ってくると

エースの頭を軽く小突いてベッドの上に押し倒した







――― な…?! ―――






驚いて引きつったような顔をしているエース…

その表情を見て、は思わず笑いだした。









「あははは!! …何て顔してんだよ。

別に捕って喰う訳じゃないから安心しな?」






――― うぉ!! ―――









ヒンヤリと冷たいタオルがエースの顔に当てられる…









汗ばんだ顔や包帯の巻かれていない

肌の露出した部分を丁寧に拭いていく





傷口から出た熱で火照ったエースの肌を

ヒンヤリと冷たい空気が撫でていく…










――― あ〜……凄ェ気持ちいぃ…… ―――




「 ちょっとは気持ち良くなった? 

汗だくで寝てたからベタベタして気持ち悪ィんじゃないかな?って思ってさ…」









ベタ付いていた肌もサッパリし、気持ち良さそうな顔をしているエースを見て

満足気な笑みを浮かべ話し掛ける







そんなを見て、疑問を抱くエース…











――― ……何なんだコイツ…… ―――









初対面で素性も知れない男なのに、

色々と世話をするを訝しく思うエース。











――― 俺が懸賞金付きの海賊だって判ってて世話してんのか? ―――











――― 油断させといて海軍に引き渡すつもりか… ―――









――― ……それとも ただのお人好し? ―――










「 ……どうしたの? ……あぁ! 」










エースが色々と思考を張り廻らせているのに気付いたのか

が笑いながら答えた










「 別にボランティアでアンタの世話してる訳じゃないからね?

かかった医者代も血が付いてダメになった服代もキチンと払って貰いますからvv」



―――  何だ、そういう事か…… ―――











の言葉に納得したエースは笑顔を向ける



その笑顔に、本人の了承を得たと勝手に判断を下した

しかし、エースに返済する気などあるはずもなく……








――― ……傷さえ治っちまえば逃げるのなんざ訳ネェな ―――







…当然、が そんなエースの思惑に気付く事はなかった。




















暫くすると、部屋の扉がノックされた


が立ち上がって扉を開けると、そこには人の良さそうな年配の男が一人……








「どうだいお客さん…弟さんの具合は…」


「えぇ…ありがとうございます…お陰様で先程 気が付きまして…」


――― はぁ?! ―――







の態度にビックリするエース…



それもそのはず…先程までの男勝りな喋り方は何処へやら

声のトーンを上げ、女らしい仕草で丁寧に話しだす



に騙されている事に気付いてない男は、にこやかな表情で話を続ける…








「そうかい、そりゃぁ良かった。」


「本当に…何から何までお世話になりっぱなしで…

私が母と喧嘩して家を飛び出したりしなければ、弟もこんな目に…うぅっ…」


「弟さんも災難だったが、そんなに自分を責めるもんじゃないよ…

また何か必要な物があれば遠慮なく言うんだよ? 持ってきてあげるからね。」


「はい…また何かお願いしたい事がありましたら、お伺いしますので…

その時は宜しくお願い致します。」







が深々と頭を下げると、男は満足気な顔をして帰って行った。




扉が閉まると同時に頭を上げ、チロッと赤い舌を見せる




「 …やっぱオヤジはちょろいvv 」




してやったりとでも言いたげな笑顔でエースの傍に戻ってくる









「あ…説明しておいた方がイイよね? 今来た人はココの宿屋の主人。

んで、あんたは一応私の弟って事にしてあるから…」


――― ……はぁ??…… ―――








キョトンとした顔をしているエースを見て、が続けて話す。







「だって、いきなり血みどろのヤツ連れて宿屋に入ったら普通は軍に通報されるじゃん?」




――― まぁ、確かに一理あるな…… ―――




「 あ、ちなみにアンタは山賊に襲われて怪我したって設定になってるからvv

 喋れるようになったら ちゃんと口裏合わせてよね?」






――― とんでもネェ女だなコイツ…… ―――














自分の口唇に指を当て、笑顔を見せる



の言っている事ももっともなのだが、

まるで楽しんでいるかのような態度に思わず溜め息を吐くエース











――― しかし……何か面白ェヤツだ。 ―――














コロコロと変わるの態度に興味を持ったのか

ジィーッとを見つめるエース。













「…何? 何かアタシの顔に付いてる?」








エースがあまりに自分の顔を凝視しているのが気になり

鏡を覗きに行こうと その場を離れようとした




その時、エースは思わずの腕をガシッと掴んだ








「 !?!? 」







ビックリしてが振り向き、エースと目が合った瞬間…













『ぐ〜〜〜きゅるるる…』










静かな部屋の中にエースの腹の音が響き渡った…

短い沈黙の後、は腹を抱えて笑いだした









「…あははははは!!! 何だ…腹が減ったのか。

ちょっと待ってな。何か食うもん貰って来てやるから…」











ケタケタと笑いながら、は部屋を出て行った…








そして部屋に一人取り残されたエースは

ふと自分の手を頭上に掲げ、ジーっと眺めながら物思う…












――― ……何でとっさにアイツの腕を掴んだんだ? ―――











暫しの間 考えてみたが、皆目 見当もつかない










――― まぁイイか……とりあえず海軍に通報する気はネェみてぇだし… ―――










――― あ〜…腹減ったな〜…… ―――














――― だが……まだ少し眠ィかも…… ―――








腹の虫は食べ物を要求してグーグー鳴っているが、
身体は体力を取り戻そうとしているのか、強力な睡魔に襲われる…









――― アイツが何か食うモン持って来るまで暫く寝るか… ―――








エースはゆっくりと目を閉じると

そのまま深い眠りに落ちていった…