本船の大食堂で、大量の食べ物を目の前に並べ
ガツガツと勢いよく食べているエースの元に
一人の男が声を掛けて来た。
「よぉエース…相変わらずスゲェ食欲だな。」
「??」
口一杯に食べ物を頬張りながら振り向いたエースの目に入ってきたのは
エースが白髭船に乗った頃から何かと世話を焼いてくれている男 ネイサンの姿だった。
この男、白ひげ海賊団の中でも結構な古株で、
元々は二番隊隊長を務めていたのだが
30後半を過ぎたところでエースにその座を譲り
偵察・諜報など情報収集中心の活動をするようになった。
その為、今回の襲撃でエースが本船を離れる前から、
長いこと留守にしていた事もあり
久々のネイサンの姿に、食事中なのも忘れ慌てて言葉を返すエース
「☆※∀∂!! ∝◆√ヱ*◎≒!!」
「…だから…口の中に食い物を入れたまま喋るのはヤメろ…」
エースは口に含んでいた食べ物を一気に飲み込もうとするが、
喉に詰まらせたのか胸板をドンドンと叩き、もがき苦しむ。
それを見て、ゲラゲラ笑いながらネイサンがグラスを差し出すと
慌ててそのグラスを受け取り、中に入った酒で
喉に詰まった食べ物を一気に流し込むエース。
「っぶはぁ───っ!! まいった………死ぬかと思った。」
「白ひげ海賊団二番隊隊長 火拳のエース、飯を喉に詰まらせ死亡…ってか?」
「そんな死に方………嫌すぎる…」
「わははははっ!!」
「ぷははははっ!!」
顔を見合わせて笑い合う二人。
ふと、思い出したようにエースが口を開く。
「 そういやネイサン…何か俺に用があったんじゃないのか?」
「 ん? あぁ、そうだった…
今日の襲撃の首尾は上々だったらしいな…親父が褒めてたぞ。」
「 ぁ? そうか? へへへ…」
ネイサンの言葉に無邪気な笑顔を見せるエース。
「まぁ、お前に追い上げられて僻んでる連中も居るがな。
手柄がモノを言うこの稼業だ…そんな連中は放っときゃイイ。
ただ、俺が聞きたかったのは……」
ふと真顔に戻り、エースを見るネイサン…
「…何だ?」
「お前…今日、女を一人連れて来たんだって?」
「その事か……あぁ、連れて来た。」
「……前に話してた例の女は、もう諦めたのか?」
「へへ…」
「何だよ、その笑いは…」
「…実は今日連れて来たのがソイツなんだ。
一年ぶりで髪も伸びてたが間違いねぇ。絶対にアイツだ。」
ネイサンを見ながら、自信有りげに笑うエース。
「へぇ〜…こりゃまた意な事もあるってモンだ。これも運命ってヤツかねぇ…」
「からかうなよ…でもアイツは俺の事が判らなかったみてぇなんだよな〜…」
「判らなかったって…忘れてるって事か?」
「…そうみてぇ。」
「そりゃやっぱり……原因はアレだろうな。」
「多分な……さて、どうすっかな? これから……」
「ふむ……気長に思い出すのを待つか……それとも素直に説明するか。
ま、どうするかは自分で決めるこった。
そういう事なら、とりあえず頑張れよ! エース!!」
ネイサンは気合いを入れるかのようにエースの背中をバシッと叩くと、
席を立ち、食堂から出て行った。
「ってぇ〜…あンの馬鹿力…ったく…あ!
そうだ、おっちゃん! 何か食うもんくれ!!」
ふと思い出した様に厨房に居るコックに向かって叫ぶエース。
「何だぁ?? あんだけ食べたのに、まだ足りねぇのかぃ?!」
「はは…違ぇよ。部屋に居るヤツに持って行ってやるんだ。
そろそろ目ェ覚ましてる頃かもしれねぇし…」
「そうかい。じゃ、ちょっと待ってな。今作ってやっから…」
「へへ…悪ィな、おっちゃん。」
エースは厨房の中でテキパキと食事を作り始めたコックを見ながら、
ふと昔の事を思い出し始めた…
一年前、と出会った日の事を…
場所は冬島…
その頃のエースは、まだ白ひげ海賊団の中でも地位は低く
常に上に伸し上がろうと自ら進んで力量に見合わないような
危険な仕事ばかり引き受けていた。
その日も一仕事終えたエースは、
早く成果を報告しなければ…という一心で
疲れた体にムチを打ち、本船に帰る足を早めていた。
しかし途中で運悪く海軍に見つかってしまい、
疲れていた事もあってか海軍の能力者により深手を負わされてしまう…
何とか追っ手を振り切ったのは良いが、
路地裏に逃げ込んだ所で力尽きてしまったエース…
( だりぃな……もう身体が動かねぇ )
( ……俺の命運もいよいよ尽きたか? )
( いつ死んでもいいように、悔いのねぇ人生送って来たつもりだったが……
やっぱり、いざとなると名残惜しいモンだな…)
( ……人間、死ぬときゃ今までの人生が走馬灯のように見えるって聞いたんだが……)
( ………何も思い出さねぇじゃねぇか。 )
などと、路地裏の薄汚れた壁にもたれ掛かり、
何処を見る訳でもなく、ボンヤリと眼前を見据えながら考えていたエース……
そこへコツコツと足音を立てながら一人の人影が近付いて来た…
買い物帰りだろうか、紙袋を両手で抱えた女が一人歩いて来る…
ガサガサと音を立て、袋の中身を見ると首を傾げ
ポケットの中の小銭を取り出し、数を数えて怒り出した
「やられた! あのクソオヤジ…やっぱり誤魔化しやがった!!」
どうやら買った物の中身と釣銭の計算が合わなかったらしい。
ブツブツと文句を言いながら歩いていたが
街灯の下に座り込んでいるエースの姿に気付いた。
「何だ??………人?!」
が恐る恐る近づいて良く見ると、
黒いコートの一部が裂け、ドス黒く変色した液体がこびりついている。
さらにその下には痛々しく裂けた傷口が見え
まだ乾ききっていない真っ赤な液体が付着していた。
(うわ………凄い血……死んでんのかな?)
座り込んだまま微動だにしないエースの傍にしゃがみ込み
恐る恐る頬に掛かった髪を払い除けると
ペチペチと軽く頬を叩きながら声をかける
「………ねぇ、大丈夫?」
「…………」
焦点の合わない目が、微かに自分の方を向いたのに気付く…
(………一応生きてるみたい………)
「医者に連れてってやろうか?…ほら…立てる??」
エースの腕を引っ張って立ち上がらせようと試みるが
その手を握り返す力もないらしく、肩に掴まる事も出来ない様子に困り果てる……
「困ったな………どうしよう………」
無視して立ち去れば、このまま死んでしまうかもしれない。
もちろんそんな薄情な事をするなんて出来る訳もなく…
「 厄介なモン見付けちゃったなぁ……」
は深い溜息を吐くと、仕方なくエースを背中に背負った。
「はぁ〜…つくづく損な性格…」
一言洩らすと、半ば引きずるようにエースを連れて町中に入って行った…