太陽も水平線の彼方へと沈み

雲一つない夜空には 金色に輝く満月と

満面の星々が浮かんでいる…











気候も安定し 月明かりに明るく照らしだされた大海原を

鯨を模った船首楼のガレオン船が ゆっくりと 漂うように進んでいた


















穏やかな その海面とは正反対に

船内では賑やかな宴が催されているようで……




酒瓶を手に 茹で蛸のように顔を赤らめた者や 大声で酒の摘みを要求する者

気持ち良さげに歌を唄う者 酔っ払って奇声を発している者など

船内の至る所で 多種多様な姿の輩が見受けられていた











そんな中









眉間に皺を寄せたまま

酒瓶に口を付けている男が ただ一人……

















「 おい、エース……何 そんな仏頂面しながら飲んでんだよ 」


「 ……っせぇな……放っとけ…… 」














声をかけてきた輩がエースの目線を追うと

その視線の先には 白髭の隣で

酌をしながら飲まされているの姿があった








「 あ〜〜……何だ、原因はアレか(笑) 」







宴の開始当初から エースの隣で

なるべく目立たないようにしていた


しかし エースが連れて来た女に 多少なりとも興味を持っていた白髭は

宴も中盤に差し掛かったあたりで を自分の元へと呼び付けた




船長である白髭の命令に逆らうような事をするはずもなく…

は素直に その傍らへと歩み寄ると、簡素な自己紹介をし 頭を下げた







「 なかなか肝の座ったガキじゃねぇか……気に入った! 飲め! 」







怯える仕草を見せる訳でもなく

燐とした態度を見せたを気に入った白髭は

気分良さげに上物のワインを投げて寄越した






どうせ大して飲めはしないだろうと思っていた白髭だったが

もともと酒には強い

ものの数分で その一瓶を空にしてしまった








そんなを益々気に入ったのか…


白髭は その後  をエースの元に帰す事 無く

傍らに置き 酌をさせつつ飲ませ続けていた










が白髭に気に入られた事は これから先を考えれば良い事だとしても

自分の元へと帰して貰えないのはエースとしては大誤算であった






しかも白髭に勧められるまま飲み続けている

次第に酒が廻りはじめたのか…

白い肌は ほんのりと紅潮し 大きな瞳はトロンと伏し目がちになってきた






その後も酒が進むにつれ ますます色香を帯びていくの姿に

普段 女日照りな輩の視線も集中し始める…






「 ………ちっ……… 」






そんな周りの様子に気付いてはいたものの

相手が白髭ではを呼び戻す事も出来ず、エースとしても

なかばヤケ気味に酒を煽るしかなかった































宴が始まってから かなりの時間が経過し

大量の酒を飲み続けているエース


しかし こんな状態では気持ち良く酔えるハズもなく…


眉間に刻まれた縦皺が

ますます深くなっていくだけであった

















( ……機嫌悪そう………そろそろ何とかしないと…… )














先程から至極 不機嫌そうなエースの様子に気付いていた



としても 何とか理由を付けて席を外そうと思ってはいるものの

白髭の機嫌を損ねる事無く 退席する理由が思い浮かばず 内心 困っていた










( まいったなぁ……幾ら何でも こんな調子で飲んでたら そのうち潰れちゃう…… )









今まで 効率良く身銭を稼ぐ為 酒場で働く事の多かった

普段 どんなに まともな人間でも、酒が入ると

人が変わってしまったように 醜態を晒す輩を たくさん目にしてきた




自分は そんな恥曝しな真似はしたくない、と

潰れるまで飲んだ経験のない


しかし 白髭に勧められるまま飲み続けていたの身体は

大量のアルコールで感覚が狂い始めてきた




このままの調子で飲み続ければ

自分がどんな状態になるか判らず、多少 焦り始めた


そうでなくても 先程から視界に入る

エースの不機嫌そうな姿が気になって仕方がない…










( 仕方ない……こうなったら……… )








もともと濃い深緑色の酒瓶…

中身が減らなくても気付かれる事は無いだろう


そう考えたは 酔って潰れたフリをして 席を外させてもらう作戦に出た











今まで通り 瓶に口を付けてはいるが 決して酒を口内に含まないようにする

そして 徐々に身体をふらつかせ

完全に酔いが廻り始めたような行動を取っていった…










「 おい どうした……もう酔っ払っちまったのか? 」













暫くして そんなの様子に気付いた白髭が声を掛けてきた









「 ………大丈夫……です……… 」







内心 ” しめたvv ” と思いつつも

ぐったりと白髭の足に寄り掛かるような仕草を見せ 答える


そこへ白髭の傍らで飲んでいた連中が口を挟んできた











「 いくら何でも もうグロッキーだと思うぜ親爺… 」


「 あぁ、もう何本飲んでんだって話だ。 」








の作戦を援護するかのような台詞に

思わず口元が綻ぶ








( ラッキーvv )


「 そうか……あんまり平気そうな顔してやがるから つい、な……おい、エース! 」


「 ………うぃ〜す……… 」









の思惑通り

が酔い潰れそうだと思い込んだ白髭はエースを呼び付けた








「 ちょっと飲ませすぎた……悪かったな 」


「 はは……大丈夫っすよ…… 」
――― あ〜ぁ………とうとう潰れちまった……… ―――








苦笑いを浮かべながら答えたエースに

白髭の傍らに居た連中は面白そうに茶々を入れる








「 かえぇそ〜に…そんな状態じゃ手も出せねぇなぁ(笑) 」


「 ……うっせぇ…… 」








仏頂面でボソリと言い返し 自分を抱き上げたエースを

薄目で見上げ 思わず小声で笑う







「 ……くくっ…… 」


「 っ!…お前っ…… 」


「 しっ… 」








” 早く連れてって ” と、他の輩に悟られないように

こっそりとエースに目配せする











「 ………ぁ〜……… 」


「 ん? 何だ、どうかしたか? 」


「 いや、何でも……じゃ、先に抜けさせてもらいます 」


「 おぉ 」










の行動の理由を悟ったエースは

何事も無かったかのように そのまま を抱え 廊下に出ていった
































宴の喧騒が遠退いた辺りで 小声で話し始めた二人













「 んだよ……酔っ払ったフリしてたのかよ。 」


「 ったり前でしょ、こうでもしなきゃ抜けられないじゃない……まったく。
点滴うちながら あんなに飲む人なんて初めて見たわよ。 」


「 ぷはは! 凄ぇだろ、ウチの親爺♪ 」


「 凄ぇだろ、じゃないでしょっ! あんな飲み方、身体に悪いわよ!! 」


「 しゃぁねぇだろ〜…言っても聞いてくんねぇんだからよ…… 」


「 仕方ないじゃないわよ もぅ……ところで いつになったら降ろしてくれんのよ? 」


「 あ? いいじゃねぇか別に……酔っ払って歩けねぇんだろ?(笑) 」


「 な……別に酔ってなんかないわよっ! 降ろしなさいよ、コラ!! 」


「 うわ! 馬鹿、暴れんな!! もう着いちまったよ! 」


「 ……え? 」









エースの言葉通り、が前方に顔を向けると

そこには見慣れた扉があった

























自室に着いたエースは ドアを開けて中に入ると

抱えていたを ゆっくりベッドに降ろした













「 重かったでしょ……ありが…と………? 」










部屋に着く直前に暴れた為か

抱きかかえられ 変に揺られた為か…

多少 酔いが回った様子の



気だるそうにエースに礼を言いつつ

自分の発した言葉に疑問を感じていた……













( ……何か 前にも同じような事があったような…… )











反対に、その言葉を聞き 口元に笑みを浮かべたエースは

横たわるに肌掛けをかけ ソファに寝転んだ
















(  ……やっぱり……  )



















(  ……前にコイツが言ってた事は本当なんだろうな……  )















何気ない出来事が 以前にも あったように感じる…


実際、昼間の出来事があってから

は度々 既視感に見舞われる事があった





断片的に脳裏に浮かぶ光景が

二人が以前 共に居た事を物語っている…


それなのに 一向に はっきりと思い出せない上に

何故か強い強迫感を感じてしまう
















( 私……コイツの事を好きだったんだよね? )












( ……じゃぁ 何で…… )











( ……何で思い出せないんだろう…… )











思い出せない事に対し、戸惑ったり 申し訳なく感じたりする部分もあったが

それ以上に  の心を占め始めた想いもあった







自分が どう思われていたのかが知りたい






不安定な板の上に立たされているような精神状態ではあるが

目の前に居る男の事を もっと知りたいと思う気持ちは日に日に強まっていく…
















「 ……ねぇ…… 」


「 ……あ? 」


「 ……あたしがアンタに惚れてたって言ってたよね? 」


「 あぁ 」


「 それって……あたしが一方的にアンタに惚れてたってだけ? 」








肌掛けに包まったままエースの方を向き問い掛ける

その問いに、エースは呆れたように溜め息を吐きながら答えた










「 あのなぁ…お前の一方通行だったら いつまでも捜し回る訳ネェじゃねぇか。
俺も惚れてたに決まってんだろ? 」


「 そ……そう……… 」


「 ? んだよ、変なヤ…ツ………ぁ〜♪ 」





エースの言葉を聞くや否や、ふいっと背を向けてしまった


その反応が気になり ソファに寝転がったままを見つめていたエースだったが

その態度に何かを感じ取ったのか…

むくりと起き上がると が寝転がっているベッドの方へと歩み寄った








「 っ!? 」







背を向けていたの肩口を掴んで引き寄せると

肌掛けを一気に剥ぎ取るエース











「 どうした……顔が赤ぇぞ? 」


「 よ…酔ってるからに決まってんでしょ…… 」


「 へぇ〜……のワリには耳まで真っ赤じゃねぇか? 」









エースの言葉に、の頬はさらに赤く染まっていく







「 う……うるさ…っ… 」







身体を押さえ付けているエースの腕を振り払おうと

手を振り上げただったが

その手は容易く受けとめられ、ベッドへと縫い付けられてしまう



エースは紅潮した頬で自分を見上げてくるを見据えながらベッドに上がり込むと

下肢にまたがり 身を屈めて口唇に軽くキスを落とした…








「 な……何してんのよっ! 降りなさいよっ!! 」


「 やーなこった♪ 」







口角を上げ、ニヤリと ほくそ笑むと の頬を指先で軽くなぞるエース








「 一回だけチャンスをやるよ。 」


「 ……チャンスって何よ…… 」


「 本気で嫌なら噛み付いてでも抵抗しろよ?
そうでもしなきゃ………今回は最後までやっちまうからな♪ 」


「 なっ……っ!! 」








エースの台詞に、抗議しようとしただったが

その言葉を発する前に 素早く口唇を塞がれてしまった







「 ……んっ………んぅ………っ…… 」









舌先を無遠慮にの口内へと割り入れると

歯列を軽くなぞるエース


ビクリと身を震わせながら

徐々に力が抜け始めるの身体……それに合わせるように

エースは うっすらと開いてきた歯列のその奥へと

さらに舌先を侵入させていった



たじろぐの舌を 吸い上げるように絡め取ると

さらに深く口唇を重ね

まるで貪りつくように舌を絡め合わせていく








執拗に続けられるキスに息苦しささえ感じるが

激しく求められる事に

次第に心の奥底から じわじわと幸福感が沸き上がってくる……







( て……抵抗……どころか……… )








覆いかぶさっている身体の重み

触れ合う 肌の温かさが とても心地よく……












( ………もっと……… )














( ………もっと 触れて欲しい……… )










そんな想いがの心を支配し始め…

は自然と 自ら求めるようにエースのキスに応えていった











「 ……ん…ぅ…… 」









エースはベッドに縫い付けていた手の力を緩めると

力なく開いた その掌へ ゆっくり撫でるように指先を滑らせていく…



互いの掌を重ね合わせると

指先を絡め しっかりと握り締めるエース








「 ……っはぁ…… 」









口唇が離れると同時に

の口唇から名残り惜しそうな吐息が零れた







「 同意……と見て OKだよな♪ 」







エースは嬉しそうに口元に笑みを浮かべると

の身体を強く抱き締めた









「 本当は お前が思い出すまで待つつもりだったんだけどな… 」


「 …………… 」


「 悪ィ、もう待てそうに無ぇや…… 」









エースは呟くように そう洩らすと 頬に軽くキスを落とした









節ばった大きな掌で の軟らかい髪を撫でるように掻き上げ

その下に現われた滑らかな肌に

引き寄せられるように口付けると、強く吸い上げるエース…









「 ……んっ…… 」








白い肌に残された跡は まるで自分のモノだと主張するように

くっきりと浮かびあがっている





いつのまにかシャツのボタンは全て外され 露になったの柔肌を

エースの口唇が舐めるように滑る…


すると その後には 無数の朱印が残されていった……







「 ………は…ぁっ……… 」







時折 走る甘美な痛みに 吐息を洩らし ピクリと跳ねるの身体



その反応に満足気な笑みを浮かべるエースだったが

その指先が腰元を伝った瞬間…







「 …っ! ま…待って!! 」







が その身を強く こわばらせ、エースの身体を押し戻した






先程まで色好い反応を示していたにも関わらず

いきなり制止され さすがにショックを隠しきれないエースは

落ち込んだ面持ちでを見上げる






「 …やっぱ嫌なのか? 」


「 ちっ…違うの……嫌な訳じゃなくて……… 」







伏し目がちに起き上がると、エースに対し背を向ける







「 こ……このまま黙ったままじゃ騙すみたいで嫌だから……

……先に見せておきたいものがあるの。 」


「 …………… 」







は気分を落ち着かせるように深く深呼吸をすると

ためらいがちに震える指先で 身に纏っているシャツを ゆっくりと下ろした



肌を滑るように落ちたシャツの下に現われたものは……

何十センチにもわたる 裂けたような傷痕だった











――― ……痛々しいな…… ―――












実は まったく知らなかった訳でもなかったエース



正確には を本船に連れて来た時 ボディチェックした際に

指先が触れた程度ではあるが、皮膚が引きつれ 盛り上がった傷痕は

たとえ見なくても 触れれば その感触で判る程だった



















――― ……あん時 付いたんだろうな…… ―――















――― こんなヒデェ傷を負わせちまったんだ………忘れられて当然か ―――















薄暗い灯りの元でも ハッキリと見てとれる傷痕


自分の事だけ忘れられてしまったのも 当然の報いだ、と

エースは言葉を発する事も出来なかった…


そんなエースの反応を 悪い方へと とらえたのか

は自嘲気味に笑うと、シュッと小気味よい音を立て シャツを羽織り直した








「 ……さすがに こんなもの見せられたら気分も萎えるよね(笑) 」


「 そっ……そんなんじゃねぇよ! 」


「 気にしないで……もう寝るわ、オヤスミ♪ 」







慌てて言葉を発したエースだったが

は その場の雰囲気を取り繕うように 作り笑いを向け、目を逸らした








「 っ!! 」






エースは そんなの腕を無言で掴むと、力強く引き寄せ抱きしめる…


エースの行為に ドキドキと高鳴る鼓動


みるみる頬が朱に染まっていくのを感じ 気恥ずかしさに

身を竦ませ 俯いて顔を隠しただったが

そこへ エースが思いもよらない言葉を発した……










「 ……悪ィ…… 」


「 ……え? 」


「 この傷……俺が付けたんだ。 」


「 ? 何 言ってんのよ…これは事故で負った傷で
人に付けられたもんじゃないわ 」


「 だから………その事故の原因は俺にあんだよ。 」








そう言って すまなそうに自分を抱き締めたエースに

はエースが自分を捜していた理由を悟り、表情を曇らせた









「 そっか……だから責任感じてアタシの事 探してたんだ。 」


「 んぁ? 違ぇよ……んな単純な事じゃねぇ。 」


「 気にしなくても大丈夫よ…責任とってくれなんて言わないから(笑) 」


「 そんなんじゃねぇっつってんだろ! 」













するりとエースの腕の中から抜け出すと

かすかに震える身体を抑え その顔に笑みを浮かべて見せた


そんなの態度に声を荒げるエース







「 何 怒ってんのよ……安心して、別に こんなの何とも思ってないから。 」


「 ……ちっ…… 」










聞く耳持たずといった態度で片意地を張り通す

そんなにキレたエースは

その腕を掴むと そのまま乱暴にベッドへと押し付けた








「 っ!? な……何そんな恐い顔してんのよ…… 」


「 ………黙れよ……… 」


「 別にアンタの事 責めてなんか…… 」


「 ………黙れっつってんだろっ! 」








エースは低い声で怒鳴りつけると

が羽織っているシャツを勢いよく引き裂いた








「 なっ……何すんのよっ!! 」


「 最初に言っただろ……てめぇを抱くんだよ…… 」


「 何 言っ……ちょっ……!! 」








エースは慌てふためくの喉元に

噛みつくように吸い付いた









「 ……やっ…… 」








跳ねるように震えるの身体を

舐めるように移動していくエースの口唇…


その後には 所々 痣のように真っ赤な痕が残されていく……








「 ……っ…ぁ…… 」






顔を背け 口唇を固く閉ざしていただったが

エースの舌先が肌を滑る感触に 思わず吐息を漏らしてしまう…


それも一見 乱暴に見える行為が 強引ではあるが

決して乱暴に扱っていないため 身体は素直に反応を示してしまうから…




エースは そんなの顎を引き寄せると キスを落とす

……が……








「 ……つっ!! 」







はその口唇を拒絶するかのように噛み付いた




エースの力が一瞬 弛んだ隙に は身体を起こし、身を翻した

しかし すぐに気を取り直したエースに 再びベッドへと押さえ付けられる










「 っく…… 」








俯せ状態になり 動き辛そうな様子の


暴れた為 少し肌蹴た服を捲ると

そこには 先程 目にした傷痕が現れた…




エースが そっと その部分に触れると

は身体を強ばらせ身を捩った








「 ……ぃ…嫌っ……… 」


「 ………別に こんな傷 どうって事ねぇんだろ? 」


「 くっ…… 」








身を震わせ、シーツに顔を埋めたの姿を見て

いたたまれない気持ちのエース…













――― くそっ…意地張りやがって…… ―――



















――― ……どうって事ねぇ訳 無ぇじゃねぇか……ちくしょぅ…… ―――

















――― ……こんなモンが無けりゃ…… ―――















――― ……コイツも もっと素直になってたんかな…… ―――



















「 っひゃ! なっ……何してんのよっ!! 」









身を屈め、いきなり傷痕に舌を這わせてきたエースに

びっくりして顔をあげる









「 ……消えねぇかなと思ってよ。 」


「 ば……ばっかじゃないの?! 舐めたくらいで消える訳ないでしょ!! 」


「 んなモンが無けりゃ テメェも素直になんだろーが。 」


「 ……っ…… 」









エースの言葉に思わず口籠もる


その姿に エースは苦笑いを浮かべながら

傷痕を指先でなぞり 再び口唇を寄せた










「 ………やっ……… 」











はエースの身体を押し退けようとするが

思ったように力が入らない










「 お願い、やめて………そこ……見なぃ…で……… 」










羞恥に身を捩り 泣きそうな顔を向けた


そんなを見て エースは身を起こすと、頬に優しく口づけた









「 最初から そうやって素直になりゃイイんだよ……
確かにお前が言ったように責任は感じてるさ、だけどな…… 」


「 ………… 」


「 別に それだけの理由でお前を捜してた訳じゃねぇ。
お前じゃなきゃ駄目だからだ。 」


「 ……こんな醜い傷があるのに……それでもいいの? 」


「 こんなモン あろうが無かろうが、テメェはテメェだろ? 何も変わりゃしねぇ。 」


「 …………… 」


「 んだよ……信用出来ねぇのか?
俺ぁテメェの身体なら 傷の一本まで愛してやるぜvv 」


「 ……ばか…… 」












エースの言葉に思わず笑った

そして 心底 失くした記憶を思い出したいと思った










その時









「 っ……痛っ…ぅ…… 」









いきなり の頭に鋭い痛みが走った









「 お…おい、どうしたんだよ! 」


「 ………く……ぁっ……… 」










まるで思い出す事を禁じるかのように

眩暈を起こす程の激しい痛みが の身体を襲い始めた…






全身を萎縮させ、震えるを慌てて抱き寄せたエース











「 ちょっと待ってろ! 今 女連中 呼んで来てやるから…… 」


「 い…いい……大丈夫だから……ここに居……っ…ぁ………?! 」









 痛みが増す毎に ポツリポツリと小さな出来事が

思い出されていく事に気付いた









( ……もしかして…… )








( これに耐えれば………思い出せる? )









何の確証もないが ふと そんな考えがの頭を過ぎった…














( もし そうなら…… )













( ……大丈夫…… )















( …… まだ …… )

















( …… まだ耐えられる …… )















引き裂かれるような痛みが身体を蝕むが

それに耐えてでも 思い出したいと切に願った 










縋るようにエースの腕を掴みながら

必死で その痛みを堪える…








「 くそっ…… 」






の身に起こっている事など知る由も無いエースは

何もしてやれない事が悔しくて仕方がない…



しかし ただ ひたすら痛みに震えるの身体を

抱きしめるしか出来なかった











「 ………う……ぁ………あぁっ!! 」











幾度目かの痛みの波を乗り越えた 次の瞬間…

頭の奥で 何かがプツリと音を立てて切れたような感覚に見舞われた






押さえ付けられていたものが 勢い良く溢れ出すように

頭の中に様々な光景が浮かびあがってくる




まるでバラバラになったパズルのピースのように

一つ一つ思い出されていく記憶…


その一つ一つが紡ぎ合わされ

一本の映画を見ているかのようにの脳裏に映し出されていく……





エースに初めて出会った時の事や

共に過ごした日々  離れ離れになった経緯など……





は失っていた記憶を全て取り戻した。


と 同時に

あれ程 激しかった痛みが 嘘のようにピタリと治まった










「 ……っは…ぁ…… 」


「 お…おい……大丈夫か? 」








その声に がハッと顔を上げると

そこには心配そうに自分を見つめるエースの顔…








「 ん……もう大丈夫みたぃ……… 」


「 そ…そうか…… 」








まだ 多少 顔色は悪いが 笑顔を向けた

ホッと胸を撫で下ろしたエース…


そんなエースの顔を 何も言わず見つめ続ける











「 ……どうした? 」


「 ……さっきのさ…… 」


「 ……あ? 」


「 さっきの台詞……本気? 」


「 さっきの台詞って……“傷の一本まで愛してやる”ってやつか?(笑)
あぁ本気だぜ、テメェ限定でな♪♪ 」


「 ふ〜ん……じゃ、しっかり愛して貰おっかな♪ 」










そう言うと、エースの首飾りを掴み グイッと引き寄せ

キスをねだる仕草をみせた










「 うぉっ! 何だテメェ、いきなり積極的になりやがって… 」


「 あら……積極的なのは嫌いだった?  あの時の続き……したくない?(笑) 」


「 あの時の続きって……え?  お前……まさか……… 」


「 ……ふふvv 」


「 は……ははっ……マジかよ…… 」











の言葉に 力が抜けた様子のエース











「 ほら〜……また邪魔が入んないうちに さっさと シ・よ・う・よ・vv 」


「 …おぅ♪ 今度はどんな邪魔が入ったってヤメやしねぇよ♪♪ 」












エースの首に腕を回し その口唇に軽くキスを落とした


そんなに満面の笑みを向けると

エースは ゆっくり その身に覆い被さり ベッドへと身を沈めた……