降りしきる雨の中…
路地の片隅で、傷つき意識が朦朧としているの前に
一人の男が立ち止まり、の頬を叩きながら声を掛けている。
( ……誰?…何か言ってる…みたい…… )
は虚ろな目をしてボンヤリと男を見つめていたが、
そのまま意識を失ってしまう。
男は慌ててを抱え上げ、雨の中を走り去って行った…
「……ん…ここは…?」
が目を覚ますと、見覚えの無い部屋のベッドに横たわっていた。
ゆっくりと辺りを見回すと、どうやら病院の処置室らしく
ゴチャゴチャと色んな器材や手術道具が置いてある。
が起き上がろうとした時、部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。
「 あっ…気が付いたみたいだねvv あぁっ!!
まだ起き上がっちゃ駄目だよ…傷口が開いちゃうから…。」
男は慌てて駆け寄り、をベッドに横たわらせる。
「しかし酷い怪我だったね…あと少し見つけるのが遅かったら、危なかったよ?!」
男は何やら薬らしきものを調合しながら、話しかける。
「君…名前は何て言うの?」
「 …………… 」
が何も答えずベッドに横たわっていると、男は苦笑いを浮かべる…
「あぁ…まずコッチが名乗ってからじゃなきゃ教えて貰えないかな?
僕の名前はセインって言うんだ。一応お医者さん。君の治療も僕がしたんだよ?
あぁ、でも治療費の事とかは心配しなくて良いからね?
君はココで治療に専念してくれれば…あっ!ちなみにココは僕の家なんだvv」
セインが一人でべらべらと喋っているのが可笑しくて、は思わず笑い出す。
「あっ! 笑ったぁvv やっぱり笑うと可愛いねvv
あ…いや…普段が悪いって言う意味じゃないよ?! 綺麗な人だから、
笑ったらどんな顔するのかなぁって思ってたんだvv」
アタフタと言い訳じみた事を言うセインにが話しかける。
「ふふっ…私の名前は…助けてくれてありがとう。」
「あぁ…やっと話してくれた。ちゃんか…いい名前だねvv
じゃ、コレ…化膿止めと抗生剤…ちゃんと飲んで早く治そうねvv」
セインは子供のように嬉しそうに笑うと、調合した薬をに手渡した。
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がセインに助けられてから2週間程過ぎた……
献身的にの世話をしながらも、本業の医者もキッチリとこなすセインに、
は次第に心惹かれ始めていた…
「傷の具合も良好だね…幸い傷跡も残らずに済みそうだ。」
の診察を終えたセインがそう言うと、
はセインを見つめ、口を開いた。
「…ねぇ……どうして何も聞かないの?
何でこんな怪我をしたのかとか…今まで何をしてたのかとか…」
「ん〜…やっぱり聞かれたくない事とか触れて欲しくない事ってのは、
誰にでもあると思うんだ。 だからちゃんが自分から話してもイイかな?
って思うまで、僕は何も聞くつもりは無いよ?」
の瞳を見つめ、優しく微笑むセインに
は心臓の鼓動が早くなっていくのを感じた…
「あぁ、そうだ! リハビリも兼ねて外に買い物に出掛けようか!
いつまでも僕の服ばかり着せておくのも気が引けるし…ねvv」
「え? …そういえば全然外に出てなかったわね……出掛けましょうか。」
突然のセインの提案に、驚きながらもニッコリ微笑む。
満面の笑みを浮かべ、とても嬉しそうに診療道具を片付け始めるセイン。
は、そんなセインを見て、とても心が落ち着き幸せな気持ちになる。
……しかし、そんな幸せな時間も長くは続かなかった……
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街に出て2人で買い物をして戻ると、
どこか部屋の中の空気が重く、息苦しさを感じる。
しかし、そんな事には全く気が付かないセインは、
たった今買って帰って来た荷物を持って、リビングに入って行く。
「 セイン…ちょっと待っ…!? 」
が慌ててセインを引き止めようとした時、
突然の背中に激痛が走り、目の前の景色がグラリと揺らぐ…
後ろを振り向くと、冷たい眼をした1人の男が立っていた。
は男を見つめたまま床に崩れ落ちる…
物音に気づき、リビングからセインが飛び出してきた。
背中から血を流して倒れていると、その後ろにいる男に気づくセイン。
「…ちゃんっ!? 何てヒドイ事を…君は一体誰だ!!」
「あぁ…私からを奪っていったのは君か…」
男は冷たい眼でセインを睨みつけると、静かに歩み寄って行く。
「…兄さん…何…で……?」
「兄さん?! ちゃんのお兄さんが何故こんな事を!!」
「…帰って来ないから心配してたんだよ…
そうか…この男が居たから帰って来れなかったんだね?」
男はセインに冷たい視線を向けると、腕を振り落ろした。
その瞬間、セインの身体から辺り一面に真っ赤な鮮血が飛び散った…
「…な……何…?」
一瞬の出来事に訳も判らず、その場に崩れ落ちるセイン。
男はセインの胸ぐらを掴んで引っ張りあげると、
の方を振り向き、冷たい微笑を浮かべた。
「セインッ! やめて兄さんっ!! どうしてそんな酷い事を?!」
「どうして?…くくっ…決まってるじゃないか…この男が私からを奪おうとするからさ…」
背筋が凍るような冷たい眼でを見下ろしながら、
楽しそうにセインの身体に傷をつけていく…
は立ち上がろうとして一生懸命腕に力を入れるが、
ガクガクと震えるだけで、どうしても身体に力が入らない。
「…立ち上がろうとしたって無駄だよ? 傷口から神経毒が回ってるんだから…」
狂気に満ちた眼でを見下ろし、その後セインに向かって言い放つ。
「ククッ…苦しいかい? 私からを奪おうとするヤツは皆こうなるんだ…
まぁ二度とに近付かないと言うのなら、命だけは助けてやってもいいが……」
「…ちゃん…と…離れる位なら……死んだ方が……マシ…だ……」
荒い息遣いで途切れ途切れに言葉を漏らし、
男を睨みつけながら精一杯の抵抗を試みるセイン。
「…イラつく男だねぇ…じゃぁ、お望み通りに……殺してやるよっ!!」
その姿が男の神経を逆撫でしたのか、
男はまるで楽むかのようにの目の前でセインを切り刻んだ。
「い……いや…ぁぁーーーーーーーーーっ!!」
の悲痛な叫び声が部屋中に響き渡る…返り血を浴び、全身真っ赤に染まった男は
満足げな笑みを浮かべながら、そのまま部屋を出て行った…
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「………ちゃん……ちゃん!!」
ハッと気付き、眼を開けたの目の前には
心配そうに自分を覗き込んでいるサンジの姿があった。
「あ……サンジ……君……」
「ゴメン…酷く魘されてたから起こしちまった……」
気が付くと、無意識の内に涙を流していたのか…の頬が濡れていた。
「……ありがとう…嫌な夢を……見てたみたい…」
は頬を拭うとサンジに背を向け、そのまま何も話さなくなった。
その様子を見たサンジは、何も言わず後ろからを強く抱き締めた…
サンジの力強く温かい腕に抱かれ、の瞳から自然に涙が零れ落ちる…
(セイン…あなたを死に追いやった私が、この人と幸せになる事が許されるのかしら…)
の心の中では ”セインに対する罪悪感”と
”幸せになる事への切なる願望”がグルグルと渦巻いていた……
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〜to be continued〜