「 なぁ…たまには外で待ち合わせとかしてみねぇ?」
突然 突拍子もなくエースが言い出した
「 いきなり何を言い出したかと思えば…」
すでに夜も更け、そろそろ寝ようと
ベッドメイクをしていた
エースのいきなりの提案に驚きつつも
その手を止めず 手早く作業を終わらせ 寝間着に着替えはじめた
「 ……たまには趣向を変えてみるのもイイ刺激になんじゃねぇ? 」
「 イイ刺激って……倦怠期 迎えた夫婦じゃあるまいし。 」
苦笑いを浮かべ自分の方を見るに
ポケットから小さな紙切れを取り出し差し出すエース
「 店はココな…日が落ちるまでには着くように行くからよ♪ 」
「 有無をも言わせず決定な訳? しかも もう店は決めてるなんて
準備が良すぎじゃない……何 企んでんのよ?? 」
エースが寄越したメモを受け取ると懐疑的な目を向ける
「 ………別に何も企んでなんかいねぇよ。
たまにゃぁ変わった事しねぇとマンネリ化すんだろ?」
「 マンネリ化って……まぁ 一理あると言えば一理あるけどさ………」
しかし何だか腑に落ちない…といった顔をしているを見て
楽しそうに その頬をムニッと摘むエース。
「 ………何いつまでも面白ぇ顔してんだよ。」
「人の顔で遊ぶなぁ!!」
「 はは…じゃ、明日は外で待ち合わせって事で…そろそろ寝るか。」
「 …ん〜……で? …何で上に乗ってんのよ?」
「 あ? 何でって…寝るんだろ?」
「 こういう場合…寝るって言わなくない?」
「 …何だ、イヤなのか?」
「 ……イヤって言っても やめないくせに。」
「 そんな事ぁねぇよ……マジでお前が嫌がるような事を
俺がする訳ねぇじゃねぇか…判ってんだろ?」
「………………ん〜……。」
小さく頷くと、エースの首に腕を回し
軽く引き寄せてキスをねだる仕草を見せる
そんなの姿に 二ヤリと意地悪な笑みを浮かべると
エースはゆっくりと口唇を重ねた…
( 何か……巧く誤魔化されたような気がしなくもないなぁ… )
エースを受け入れながらも ふと、そんな事を考える
それに気付いたのか、少し不機嫌そうな顔を向けるエース
「 …んだよ……まだ疑ってんのかよ… 」
「 え…ごめん、そんな訳じゃ… 」
「 じゃ、ちゃんと集中しろよ 」
「 ……う…ん………ぁっ…… 」
エースに言われるまでもなく…
その指先や口唇から与えられる温かい感触に
の思考回路は徐々に遮られていった
熱く甘い時間が過ぎていく部屋の中…
反対に 外の世界は冷たい空気に満たされ
物音もなく夜は更けていった……
「 ………ん……… 」
次の日、が目覚めると
すでに部屋の中にエースの姿は無かった
前日の情事の名残りと けだるさをシャワーで洗い流し
約束の時間に間に合うように準備をすると
は本船を離れ エースと待ち合わせた店へと向かった…
「……海のど真ん中にあるなんて変わった店……しかも見た目 凄い変。」
エースが寄越したメモに書いてあった待ち合わせ場所は
海上レストラン『バラティエ』
店の存在場所にも驚いたが、さらにその風貌にも驚きを隠せない
とりあえず入り口から顔を覗かせ、賑やかな店内を見回すが
エースの姿はまだ無い。
の姿に気付いたウエイターが声を掛けて来たので名前を答えると
そのまま奥の席へと案内された。
「………やっぱり何だか怪しい。」
『たまには趣向を変えて』と言う理由で
わざわざ別行動で待ち合わせをしたのは判るとしても
ウエイターに案内された席が予約席らしき席というのが腑に落ちない……
( 何だろ……別に今日は誕生日って訳でもないんだけど… )
案内された席に座り辺りを見回す
何故かカップルが過半数を占め、店内に居る女性客の多くは
綺麗な衣裳を身に纏い着飾っている人達ばかり
それに比べ はと言えば
特に着飾っている訳でもなく普段と変わらないラフな姿…
「…何か場違いな気がするのはアタシだけ?」
そんな事を考えながらボーっと座っているとウェイターが注文を取りに来た。
食事は連れが来てから…と、飲み物だけ先に頼む
暫らくすると店内の照明が落とされ、辺りが薄暗くなった。
( ……何? 停電?? )
ドキドキしながら辺りを見回すと
隅の席から一つずつ 小さな灯りが灯っていく……
目を凝らして良く見ると、金髪のスレンダーなウエイターが
女性客だけに声を掛けながらテーブルの上のキャンドルに火を灯している
( あのウエイター 女の子にだけ声をかけてる… )
( あ…キレた男を蹴った )
暇つぶしにウエイターの行動を目で追っては
男女差別ありありな その態度に声を押し殺しながら笑う
最後にの席にもそのウエイターがやって来た
「 いらっしゃいませ、ようこそバラティエへ…
わたくし、当店の副料理長をしているサンジと申します。 」
( あんな接客する人が副料理長? 大丈夫か この店… )
「 本日はホワイトデーなので、女性のお客様には私からワインのサービスを致しております。 」
「 ?!……ありがとうございます〜vv 」
( …ワインをサービス? ラッキーvv 儲けvv )
サービスという言葉を聞いた途端 猫撫で声で笑顔を向けたは
嬉しそうにグラスに注がれていく紅いワインを見つめる
――― こんな日に一人かよ……ん? もしかして……チャンス? ―――
一人で席に座っているを見ながら サンジが口を開く
「 あの…失礼ですが、お一人ですか? 」
「 え……いえ、もうすぐ連れが来ると思うんですけど…… 」
「 貴女のような素敵なレディを待たせるなんて不届きな野郎ですね……
そんな男は放っておいて 僕と素敵な一夜を過ごしましょう〜〜vv 」
そう 言うが早いか、するりとの手の上に自分の手を重ねるサンジ
あまりにも素早いその行動にビックリしながらも
ニッコリと微笑み その手をキュッと摘み上げる
「 ……遠慮しますvv 」
は名残惜しそうに何度も振り返りながら厨房に戻っていくサンジに
ニコニコと作り笑顔を向けながら手を振る…
そのテーブルの上にはしっかり頂いておいたワインのボトルが置かれていた
( 今日はホワイトデーか……どうりでカップルばかりなんだ。
それで誘った訳ね…柄でもない事しちゃって )
エースがホワイトデーを知っているとは思わなかった
一人 照れ臭そうにクスクスと笑うと、
上機嫌でワインを飲み始めた…
ふと気が付くと がバラティエに着いてから
小一時間程過ぎている…
( 遅いなぁエース…自分から誘ったくせに…… )
周りを見ると、自分のテーブル以外は全て幸せそうなカップルばかり
そんな中、明らかに一人だけ浮いた状態…
エースが来るまでは…と思い 食事を取らずに飲んでいた為か
かなり酔いが回ってきた様子の
( ……別にこんな事してくれなくてもいいのに…… )
ボーっとキャンドルの灯りを眺めては
炎の揺らめく様にエースの姿を連想させ 深い溜め息を零す…
エースが傍に居ない事が とても不安に感じられ
次第に気分が落ち着かなくなってきた…
加えて酔いも手伝い、涙 脆くなってきたのか
その瞳にうっすらと涙が浮かんでくる有様
( …ヤバイ…こんなトコで一人で泣いてたら変なヤツだと思われちゃう… )
思わず上を向いて涙を抑えようとするが
どうにも抑える事が出来ず…結局、俯いてしまった
( あ〜〜カッコ悪ぃ……もう帰りたい…… )
既に顔を上げる気力もなくなったのか
テーブルの上に突っ伏してしまう
( エース どうしたんだろ……… )
( 来る途中で何かあったとか……)
この店の周りは一面 海
咄嗟の出来事に対処しきれず海に落ちてしまったのだとしたら
能力者であるエースが無事でいられる訳もない。
マイナス思考とは恐いもので
の頭に浮かんで来るのは最悪な状況ばかり…
次第に いてもたっても居られなくなったは
席を立ち、フラフラした足取りで壁づたいに出口に向かって歩いていく
( こんなに飲むんじゃなかった……もぅ、なんて馬鹿なんだろアタシ…… )
はやる心とは裏腹に、酔いの廻った身体は
言うことを利かず
足がもつれて よろける…
そんなの身体を 横から差し出された腕がガシッと受け止めた
「 エース?! 」
ハッと顔を上げ、支えている人の顔を見る
しかし期待した人の顔ではなく……
の身体を支えていたのは
この店の副料理長 サンジだった…
「 大丈夫ですか? 足元が覚束ないようなんですが…」
「 だ…大丈夫です、すいません! 」
たとえ助け起こす為であっても
酔って神経が過敏になっている状態の身体を
エース以外の男に触れられたくないらしい
心配そうに自分を支えているサンジを余所に
その腕の中から逃がれようと身をよじる
「 ごめんなさい、もう大丈夫だから……離し…!? 」
突然、サンジの腕から力強く引き剥がされたかと思うと
その身を強く抱きしめる影に 荒々しく その口唇を塞がれる
息苦しいくらいの激しいキスに 目眩さえ覚える…
しかし そのキスが普段 され慣れた相手のものである事が
判らないはずもなく…
解放された目線の先には、案の定
不機嫌そうに自分を見下ろすエースの顔が…
「 ……てめぇ 何 他の男に抱かれてんだよ。」
「 ……不可抗力よ、バカ…… 」
普段のならエースの台詞に
怒涛の勢いで怒り出しても良さそうなものなのだが
先程まで胸中を占めていた不安が取り除かれ
脱力しきったは、大人しくエースに その身を委ねたまま…
「 遅かったじゃない…」
「悪ィ…来る途中で海軍に見つかっちまって撒くのが大変でよ…」
「 そう…… 」
いつもと違うの反応に 何だか調子を狂わせるエース…
「 …どうした…酔ってんのか?」
「少しね…エースが来るまで何も食べずに飲んでたから…」
「ったく、しょうがねぇなぁ…」
「…お取り込み中スイマセンが…」
「 んぁ? 」
半ば呆れた表情で二人を眺めていたサンジが口を開いた
「お連れ様が到着したようですが…お食事はどうしましょう?」
(ったく、ふざけんなよ。目の前でイチャつきやがって…)
「あぁ、こりゃスマネェな…どうする 酔ってるみてぇだけど、食えるか?」
「うん……せっかくココまで来たんだし。」
「 つー訳だから…うめぇモン持ってきてくれ。」
「…ウチは何でもクソうめぇっすよ。」
(あ〜アホらし…勝手にやってくれ)
溜め息を吐きながら、サンジは そのまま厨房へ入って行った…
席に着き、出てくる食事を食べ始める二人
たまに食べてる途中で寝入るエースを眺めては
ケタケタと笑いながら酒を飲む
騒々しいテーブルを 周りの客は訝しげに眺めているが
当の本人達はお構いなしに楽しんでいる。
テーブルの上にはドンドン皿が積まれていき、
かなりの量を食べ終えた頃 デザートを持ったサンジがテーブルにやって来た。
「本日のデザートです。」
「デザートって…頼んでないですけど?」
「お連れ様から承っております。」
サンジの言葉に がエースの方を振り向くと
目線を逸らし、照れくさそうな笑みを浮かべているエース
「お客様の誕生花の蜜から作ったシフォンケーキです。」
「誕生花…って時期外れじゃん…」
「花自体じゃなく蜜ですからね、簡単に手に入りますよ…ごゆっくりどうぞ。」
目の前に置かれたデザートに手を付けず
ジィーっと見つめたまま固まってるを見てエースが口を開いた
「どうした…食わねぇのか?」
「た…食べるよ。」
フォークでケーキの端を切り取り 口に運ぶと
ほのかな甘い香りが鼻腔を抜け 舌の上でサラリと溶けるように消えていく…
「…美味し…」
一言言った途端、の瞳からポロりと涙が零れた
「 何だよ…泣くほど美味いのか?」
「 違うよ……柄でもない事すんなよ…エースのバカ…」
恥ずかしそうに俯いたままチマチマと食べるの姿に
頬杖をつきながら ほくそ笑むエース
「はは…素直に喜べよ、可愛げのねぇヤツだな…」
「…うるさい…バカ…」
「ラストオーダーになりますが…ご注文は宜しかったですか?」
「あ…はい 美味しかったです、ごちそうさまでしたvv」
「お気に召して頂けて何よりですvv 」
食べ終わったデザート皿を下げに来たサンジに笑顔を向ける
その表情に満足気な笑みを浮かべたサンジは
デザート皿を持って厨房に戻って行った
「 腹も一杯になった事だし…そろそろ帰るか。」
「 そうだね…帰ったら今日のお礼に
今度は私がサービスしてあげよっかな?なぁ〜んてvv」
食後、一息ついて立ち上がったエースに続き
冗談めかして椅子から立ちあがる
しかし そんな冗談がエースに通じるはずもなく…
「 じゃ、船ブッ飛ばして帰るか♪ 」
にやりと不敵な笑みを浮かべたエースは
の腕を掴み、その身を引き寄せた
「 ば…本気に取るな!って聞いてんのかコラ!!」
「いまさら訂正は無しだ♪」
「ちょ…待っ!!」
エースは慌てふためくを担ぎ上げると
そのまま勢い良く店を飛び出した
「 あ、こら! まだ お金払ってない〜〜〜〜!!」
「 いいんだよココは♪」
「いいって……いい訳ないでしょ! 降・ろ・し・な・さ・い〜!!」
「 却・下・♪」
大声で喚くを乗せた小船は
水平線の彼方へと消えていった…
余談ではあるが V.Dの侘びに…と
飲食代を白髭が支払っていた事をが知るのは
それから もう少し後のお話☆