大きく広げられた船帆に風を受け 海上を悠々と進んでいく大型船…

掲げた旗には卍を背負った髭ドクロ…白髭海賊船である。










太陽が水平線から顔を出し

早朝の冷たい空気が次第に暖まり始めた頃…

甲板では新顔のクルーが忙しなく歩き回り

船の修繕や清掃に勤しんでいる。



反対に古株や幹部クラスのクルー達は

いつまでもノンビリ寝ていたり まだ夜があけて間もないと言うのに

酒を飲んだり ギャンブルに興じたりと、各々がそれぞれ好きな事をしていた



















――― ところ変わって船内 ―――















船底にある、とある一室












小窓から差し込む朝日がベッドで寝ていたエースを照らす…

眩しさに顔をしかめつつ、真横に腕を伸ばすエース












「ん〜〜……」










伸ばされた腕が一瞬動きを止め、

再度ベッドの上をゴソゴソと探る…










「…………んぁ?」









パチリと目を開け上体を起こすと、

キョロキョロと部屋の中を見回すエース



いつもはエースが起きるまで

一緒に寝こけているの姿が何処にも無い









「…………?」









名前を呼んでみるが、返事は返ってこない…











――― …何処行ったんだ? ―――










ベッドから降りたエースはブーツを履くと

足早に部屋を後にした…


































廊下に出ると 床の掃除をしていたクルーを見つけ、声を掛けてみる。











「あ、隊長、おはようございます。」


「おぉ…なぁ、 見なかったか?」


「え? 今日はまだ見てませんが…」


「そうか…」










返答を聞き、即座にその場を去ろうとしたエースに

伝言を思い出し、慌てて引き止めるクルー。










「あ…隊長! さっき一番隊の人が甲板で幹部会をするって…」


「あぁ? どうせギャンブルだろ、面倒臭ぇ…」


「あ、ちょ……ちゃんと伝えましたからねー!!」










ゴツゴツと足音を立て去っていくエースの背後からは

少し困った様子のクルーの声が響いていた

















次にエースが向かったのは食堂―――


















「起きてすぐ行くトコっつったらココだよな…」















ガヤガヤと騒がしい食堂の中

グルッと一回り見回してみるがの姿はない…


念のためコックに声を掛けてみようと

厨房を覗き込んでみるエース














「うぃっす!」


「おぅ エース! 今朝は遅かったじゃねぇか…」


「なぁ、 来なかったか?」


? 見てねぇなぁ…。」


「そうか…ったく、何処行ったんだアイツは…」


「あ、おいエース、飯は?」


「あー…あとでと食いに来るから、何か残しといてくれ!」


「おー! 早く来ねえとろくなモン残らねぇからなー!!」











コックの声を背に、エースはそのまま食堂を後にした

















その後、エースは甲板に出ると

船首 ・ 船尾 ・ 見張り台…と、船内を一通り捜してみたが 

結局 何処にもの姿を見つける事は出来なかった


















「ったく、何処行ったんだアイツは……まさか…」













船内に居るナースに比べれば、

とりわけ美人と言う訳ではないのだが、

男好きされるタイプのの事…

まさかとは思うが、この船の中で他の男と浮気でもしているのでは?

などと妙な勘繰りをしてしまうエース。












(そういや、昨日は妙に詳しく俺の予定を聞いてきやがったよな…)












今 思えば、あれは他の男と逢う為の時間を図るつもりだったんじゃないか?とか

今頃 その男と何処かでこっそり良からぬ事をしているのでは…など

思い始めるとキリがなく、色々な妄想が頭を巡り

しまいにはが他の男とイチャついている姿まで頭に浮かんでくる始末…












「ちくしょう! 何処のどいつだ、人の女に手ェ出しやがって…」










すでに勝手な想像で頭に血がのぼっているエース…

荒々しい足音を立てながら ある一室の前を通った時

部屋の中から微かにの声が聞こえ、エースは慌てて立ち止まった。











「ねー…そろそろ帰っていい?」


「………あぁ?」


――― ……男の声?!―――










思わず聞き耳をたてるが、男の声は少し籠もっていて誰か判らない…










「 勘弁してよ、朝っぱらから…もう疲れたよ〜。」


「 しかし おめぇウメェな… 」


「 当たり前じゃん♪ 床上手なのよ、私…なんちてvv」


「 そりゃ結構…その勢いでもっとヤレ。」


「 え〜! もう腰が痛いよ〜!! 」


――― 上手いとか腰が痛いとか…一体 何してんだのヤツ!! ―――


「 そろそろエースが起きる頃なのに…居ないとまた怒るじゃん…」


「 勝手に怒らせておけ。」


「 ………他人事だと思って……… 」














男の言い草にエースの理性の糸がプチッと切れた…













――― ふざけやがって!!!―――














先程の勝手な想像もあり、怒り心頭のエースは

もの凄い勢いでドアを蹴り開けた…

















「 ふざけんじゃねぇぞコラ!!」


「 エ…エース!?」














エースが部屋に入ると、ベッドの上で肌掛けを被って伏せている男の上に

跨った状態で固まっているの姿が目に入る…


さらにの服装は寝る前に着ていた部屋着のまま…

薄着で少し露出度が高く、余計にカリカリと憤慨するエース













……お前、俺に隠れて浮気するたぁイイ度胸じゃねぇか…

後でキッチリお仕置きしてやらなきゃなぁ〜…」



「…え? 浮気って…何言ってんのエース?!」


「言い訳は聞かねぇ…その前に、ソイツに話がある…降りろ!!」


「ちょっ……痛っ!!」











エースはの腕を掴んでベッドから引きずり降ろすと、

ベッドで伏せている男の肌掛けを剥ぎ取った…
















「…………!!」




















剥ぎ取った肌掛けの下に寝ていたのは…











エドワード・ニューゲート……この船の船長である。









ビックリして固まったままのエースを見てニヤリと笑うと、

からかうように口を開く白髭…













「………何か言いてぇ事があったんじゃねぇのか?」


「お…オヤジ??……何で??」


「ソイツに指圧して貰ってたんだが……文句があるのか?」


「指圧〜〜〜?! 何でこんなトコで……」


「俺の部屋で何をしてようが俺の勝手じゃねぇか。」


「………へ??」









そう言われて やっと、今 自分が居る部屋が

白髭の部屋である事に気付くエース












「あ…あれ?? 」


「……………。」


「はは……」












エースが引きつった笑いを浮かべて振り向くと

眉間にシワを寄せ、冷めた視線を向けているの姿…















「……………」


「えーっと………?」


「……………何。」


「んな眉間にシワ寄せてちゃイイ女が台無しだぜvv」


「………聞く耳もちません。」













クルリと向きを変え、白髭の部屋を出て行く










「あ…おい、待てよ!!」










慌ててのあとを追いかけ出て行くエース

その後ろから聞こえてきたのは白髭の大きな笑い声だった。











































「 なぁ…機嫌直せよ。」


「…別に機嫌悪くありません。」


――― 嘘付け! メチャクチャ悪いじゃねぇか… ―――











部屋に戻ってからも不機嫌なままエースと目も合わせようとしない

頑固なその態度に次第にイライラが募りはじめるエース









「だいたい何で朝っぱらからオヤジの部屋になんか居たんだよ。」


「用事があったから行ったに決まってんでしょ。」


「用事って何だよ?」


「浮気よ、ウ!・ワ!・キ!」


「だから悪かったって言ってんじゃねぇか! しつこいぞ!?」


「しつこくて浮気性の嫌な女なんですvv」


「あ〜〜〜〜!! もういい!! 勝手にしろ!!!」











何度も謝っているというのに取り合わない様子の

さすがにキレたか、部屋を出て行ってしまったエース














「出てっちゃった………って、当たり前か

いつまでも こんな態度とってりゃエースだって怒るわよね…」















エースに何も言わずに部屋を空けた事は反省していたものの、

浮気を疑われた事がかなり頭にきていた




しかし それも何度も詫びられた事で、途中でどうでも良くはなっていたのだが

機嫌を直すタイミングが上手く掴めず いつまでも意地をはっていた



その結果、エースの方が怒って部屋を出て行ってしまったのである…



















「はぁ〜〜〜……」














元を正せば自業自得なのだが…




部屋に一人 ポツンと残され、

何だか無性に寂しくなってきた…















「……何で今日に限って喧嘩になるんだろ………」













ゴソゴソと引き出しの奥から紙袋を取り出す











「これも渡せそうにないな……無駄になっちゃった。」












紙袋を逆さまにすると中から一個一個 丁寧に包装された

小さな包みが、机の上にドサドサと落ちてきた。



その中の一つを手に取り、ラッピングを剥がすと

中から出て来たのは小さな珠状のチョコレート…












本日はバレンタイン…





バレンタインという行事をエースが知っているかどうかは別として

前日、エースが寝てからコッソリ部屋を抜け出し、作った物だった。









「材料くれたコックさんの手前、捨てる訳にもいかないしな…食べちゃおうかな。」










チョコレートを指で摘み、ポンと口の中に放り込むと

表面にまぶしたココアパウダーのほろ苦さが口中に広がる…


その後、溶け出したチョコの甘さと

混ぜ込んだアルコールの香りが鼻腔を抜けていった…











「……美味し……さすがちゃんvv なんちて……」










エースにあげるつもりで作った物を

自分で食べている事に、無性に空しさを感じる












「 はぁー……やっぱり捨てようかな…。」



















「 何 勝手な事言ってんだ。」


「 !? 」









振り向くと、いつからそこに居たのかエースの姿…









「エ…エース……いつのまに……!!」


「俺にも食わせろよ。」










の傍らに歩み寄ると、

ヒョイと顎を掴み上げ口唇を重ねるエース…



割り入れた舌で歯列をなぞり その奥にあるの柔らかい舌を捉えると

口内に残されたチョコの風味を味わうように、深く絡められる舌先…






時間にすれば、ほんの数分の短いキス…













「 美味ぇなvv 」








口唇を離すと ご機嫌な様子で笑顔を向けるエース









「 ……喰うならコッチでしょ普通。 」











エースが戻って来て嬉しいくせに、そんな態度を見せず

まだ開けてない方のチョコを指さす









「 やっぱ美味ェモンは一緒に喰わねぇとなvv 」


「 ……ったく、もぅ………わぁっ!!」










エースは照れ臭そうな笑顔を向けたをヒョイと抱え上げた










「ついでにコッチも食わせてくれvv」










そのままベッドに連れていくと、に覆い被さる…








「ちょっ……チョコ食べてよ! チョコ!!」


「コッチを先に食ってからな…」


「もぉ〜……私は食べ物じゃないわよ…」












は口では文句を言いつつも

クスクスと笑いながらエースの首飾りを掴むと

クイッと引き寄せキスを誘った…